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そうして自分を鼓舞するのももう何度目だろうか。本来ならば歩ける状態ではないことは自分が一番わかっている。
激痛という表現も生ぬるいほどの痛みが、ふくらはぎの銃創から右脚全体へと徐々に広がりはじめている。前夜の出立の折、大阪軍の軍医が餞別がわりと打ってくれた痛み止めの注射はとうに切れてしまった。
このまま精魂尽き果て死ぬのか。否、これまでにも死ぬかと思ったことは何度かあるが、現にこうして生きている。気力だけは失ってはならない。これでも飲み薬を飲んでいるのだから何もないよりはましのはずだ、この痛みも命の代償と思えば安いもの、銃弾が貫通したことは不幸中の幸い、云々…、

「…!」

ピン、と前田の全身に緊張が走った。神戸軍の手のものか。背後の殺気、いま振り向いても恐らくは間に合わない。
脚に負担をかけずに背後の敵を仕留めるには…、まず左膝を地面につき姿勢を低くし、次には軍刀を地面と水平に抜くと同時に、逸らした上体を半身に構え、刀身を左脇の下へ通し、振り返って相手を睨むと同時にひと突きするのが現実的だろうか。
背後の敵意は近づくにつれ、神戸の軍人ではないような気もしてくる。訓練を受けた者のもつ秩序感、もっと言えば美しさを感じないのだ。
ならば相手は、必要に迫られ、食料や物資などを代償に神戸軍の子飼いとして動いているだけの大阪市民かもしれない。
とすれば…、振り返りざまにいきなり突き殺すのも気が引ける。

そうして逡巡している間に、背後の殺気は前田に向かって飛び掛ってきた!


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