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これはつまり、技術屋として知見に優れるといえど軍での階級は中尉にすぎない清水が、独断で作戦に変更を加えようとしているのだということを亀井は察知した。
実のところ、こういうことは今回が初めてではない。だから慣れているといえば慣れている。
しかし…、今は訓練や輸送をしているのではない。戦時下だ。しかるに、本当にそれでいいのだろうか。胸にモヤモヤとしたものが湧きあがる。
「ほれ早く」
清水はやはりディスプレイから目を離さないまま言った。もはや脇に立つ亀井は視界になく、仮に忠告しても耳には入るまい。
「了解しました。では」
返事をして、鉄でできた重いドアのノブを回し、亀井は諦めの気持ちとともに、ひとつ長く息をついた。
…あの人がああ言うなら、大丈夫だろう…。
彼は彼の不器用な上官をよく知り、そして信頼している。
しかし、それゆえ…、
これから暫時、密室に清水ひとりを置くということについて、あらためて顧ることはしなかった。
かくして追い立てられるように廊下を出た亀井の姿を…、遠方、3つほど先の曲がり角から横目に捉えようとする者がいた。
その不気味に物言わぬ大きな瞳は、名を二岡智宏という。
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