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「ですが近いと思われます。…おそらく、彼が死期を悟ったのです。聖都はそのように見ている。文京軍内部には当然知らされていないでしょうが、聡い者は感づいているかもしれません」
「……!」
「私自身は昔のことは存じませんので、総統にお聞きした話ですが。あの人は若い頃にはかなり敏腕の政治家でした。
 政治や行政の腐敗を暴き、また世襲によって指導力の落ちていた軍部を再建した功績もあるそうです。…大沼総帥もお若いから、きっとご存知ないでしょう」
「ええ…、」
「ですが現在の彼はいささか歳をとりすぎました。いくら優秀な人物でも、やがて年老いて耄碌していく。それがこの世の定めです。誰も逆らえない」

仏教徒のようなことを言って、ガイエルは茶を口へ運んだ。一方の大沼は、かたく握りしめた両の拳を膝の上に乗せたままガイエルを見ている。

「では。名古屋への攻撃は、最後の足掻きだというのですか」
「いいえ、さすがに、そこまで愚かではないでしょう。目指すはおそらく、列島の制覇」
「そんなことが」
「不可能かどうかはやってみないとわかりません。きっといくらかの勝算があるのです。
 とはいえ、普通はそんな大きな賭けはしないものですが、それをやるところに執念を感じます。やらないでは死ねないということなのでしょう」
「…恐ろしい話です。一国の命運をかけて己の野望を。文京は自分のものだとでも思っているのか」
「そういうことでしょうね。そうでなければできない賭けだ」


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