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そうして、いつのまに立ち止まっていたのだろう。

「岸者。どしたの」

独特の訛りのある声で不意にその名を呼ばれ、無意識に足元へ目を落としていた岸はハッと顔を上げた。

「あ…、許者」

声の主は許者こと許銘傑だった。現在の幹部の中にも所沢の出身でない者は何人かいるが、彼はなんと、遠く台湾からやってきた男だ。

「落ち込んでるよに見えたよ。今朝の仕事なんかあった?だいじょぶ?」

青いサングラスの向こうから、許は岸の顔を軽く覗き込んだ。
許は生来もっていた気の能力を買われ、旧政権によって所沢へ連れてこられた。治安維持を推し進める目的のための特殊部隊の一員として、当時の狂犬帆足の捕捉現場にも立ち会っている。
しかしその後暫くして、自身のしていることに疑問を感じた彼は…、特殊部隊を脱走し、解放戦線へ身を寄せた。つまりは政権奪取よりもだいぶ前に加入しているから、幹部の中では古株だ。

「いえ、なんでも…、…あ、あの」

なんでもありません、と一度言おうとして、岸は咄嗟にその言葉を引っ込めた。

「ん?」
「…帆者は、昔からああなんですか?」
「どゆこと」


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