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そして、今から2年前。横浜における一年の区切り、旧正月を間近に控えたある日のことだ。その日岸本は午後から非番と決まっており、街へ買い出しに出るために、一路、軍用車を走らせていた。
軍用車の私的利用は本来認められていなかったが、陸軍は海軍に比べ権威を持たないかわりに規律が比較的緩く、
また軍施設から市街地まではだいぶ距離があったため、小隊を代表して必要な物資の買い出しに行く者に限ってはこの限りでなかった。
よって、非番の日にはみな交代で、買い出しを名目に、車を走らせ街へ出るのだが…、この日だけは、誰も行きたがる者がなかった。
旧正月を迎える直前の買い出しは購入せねばならない物が多いために、プライベートに使える時間が余分に削られてしまうからで、
何しろ一人が街へ出られるチャンスは、多い部隊で2ヶ月に1回程度。それを買い物に追われて終わってしまうのは割に合わないという訳だ。
しかし、この日、岸本がそれを買って出た。これといった理由なく、なんとなく、強いて言うなら気分転換に、今日外出したいと思ったのだ。彼には家族がなく、会いたい人も特にはないから…、暇がなくても特に構わない。
それに、買い物が多いということは、総額を安く済ませることができたなら、そこから駄賃を捻り出すも不可能ではないということだ。片手でハンドルを握る岸本は鼻歌交じりだった。


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