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☆ ☆ ☆
名古屋防衛軍、東基地、司令室前の廊下。帰還した井端を、荒木が出迎えた。
「あっバッさん、お帰りなさい」
「勤務中は中佐と呼べ、中佐と」
「あ、はい、そうですね。顔にパン屑ついてますよ」
「…」
荒木に言われるまま、井端は無言で口元をこすった。恐らく何の悪気もなく発せられたのであろうその指摘についてあれこれと反論する気力は、この時の井端にはもう、なかったのだ。
「あ、そうそう。さっき、西基地から増援のかたがいらっしゃってですね」
「…何だと。随分早いな」
「中佐が出かけてから1時間もしないくらいで、もう、いらしたんですよ。ビョンさんとも話したんですけど、長官が実は昨日のうちに調整しといてくれたんじゃないかって…」
交渉は自分でやれと言ったくせに…、と井端は思ったが、実際それ以外に考えつかない。その配慮に対し安堵に似た感謝の気持ちが起こる、と同時に、手の内をすべて見透かされているような不安が井端を襲う。
「…それで、増援は、量的にはどのくらいの。人員は?何名くらい」
「とりあえず、一人です」
「…ひとり?」
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