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「も、申し訳ないっ」
「ここが昔、神社だったって知ってますか?別に知らなくてもいいですけど、あたしゃその頃からいるんですッ」
「わ、わかったわかった。しかし、それならなぜ、御札ぐらいで…」
「そんなこともわからないの!?御札にも種類があんですよ!」
「そっ、それは存じなかった!失礼したッ」
「御覧なさい」

男はふたたび取っ手を指差した。その差された先と共に、整いすぎた手が森野の視界に入る。男の手だからさすがに白魚のようだったりはしないが、まるで専心に手入れがされているかのように美しく、一言で言うなら、やはり人間離れしている。
その指先が無造作に取っ手の護符に触れた途端…、赤い閃光が吹き出した!

「あちっ」
「だ、大丈夫か」
「ええ、まあ。これは仏様のほうの御札でしてね。ですから私には触れないのです」
「そういうものなのか」
「そういうものです」

森野は手を伸ばし、冷蔵庫の取っ手を握った。…どうということはない。そのまま取っ手を引くと、当然ながら冷蔵庫の扉が開いた…、
その瞬間、ばうん、という音を立てて、突如男は全身から煙を出した!

「うわ、な、何だ!」

その煙の中、森野はあわてて男の姿を探した。しかしどこにもその姿はなく…、かわって目の前にいたのは、虎ほどもあろうかという、巨大な銀色の狐だった!

「どうも、ありがとうございました」

それにしてもなんという早業か、狐はすでに、油揚げの袋をその口にくわえていた。森野の頭の中へ直接、間近で鐘が鳴り響くように、低い声が響く。
そういえば…、夕方、永川に聞いていたのを森野は思い出した。ここが神社だったころからいるという、稲荷様の狐の話。


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