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狭い独房に二人放り込まれ、食事以外にすることもなく、また人手不足で禄に監視の目もない環境であれば…、互いに見ず知らずであっても、嫌でも話をするようになる。
しかし、帆足は自身について大沼に多く語らなかった。その理由は単純で、自分にはわざわざ語って聞かせたいほどのことは何もなかったからだ。
だが、その退屈極まりない人生の最後に訪れた監獄の日々の退屈は、さすがの帆足にも耐え難かった。
そこへ来て、感情に任せて次々吐き出される大沼の呪詛の言葉は退屈しのぎに丁度良かった、よって帆足は大沼の話をよく聞いた。
聞けば、仮に新法がなくともどこからでも罪名のつく帆足と違い、大沼には身から火の出る能力者という以外に、投獄される理由はひとつもなかった。
つまり帆足とは対照的に、大沼にとってこの監獄入りはまったくの不本意であった、そのうえ、その能力者たる彼を生んだ父母までもが、それまでの暮らしを奪われ、施設へ隔離されたというのだ。
それは当時既に身寄りのなかった帆足には起き得なかった悲劇であり、その怒り悲しみを帆足は我が身に実感することはできなかったが…、大沼の語る恨みのこもった言葉の数々から、想像を巡らすことはできた。
大沼は復讐に燃えていた。俺は必ずやここを抜け出し、いつかはあの腐った政府を倒す。幸いにしてこの身には、みずから信ずる神より授かった力がある!

…その大沼の一言一言を、帆足は黙って聞いていた。大沼に比べれば幾分ありふれてはいるが、自分にも力はある。風を纏う力が。
ただ、間違っても、神より授かってなどいない。それはこの同居人に語って聞かせる気も到底起こらないほどの救いのない半生に於いて、あるとき偶然得たものでしかなかった。


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