329

マサユキは今にも永川に飛びかかる勢いだったが、実際は倉に捕まっているので手足をバタバタさせて罵声を浴びせるのが精一杯だ。
そこへ突然、永川が立ち上がる。まさかまた殴るのかと思えば森野は気が気でない、とりあえず今は倉がくっついているから、もし殴ろうとしても未然にどうにかなるだろうか、
いや他力本願ではいけない。もし本当にそんなことをしようとするなら、今度こそは自分が永川を止めなければなるまい…、

「言われなくてもそうさせて貰う。用は済んだからな。じゃあ兄貴またな、いい報告を待っててくれ」

最悪の事態を想定して森野は思わず尻を浮かせたが、しかし永川はあっさりとそう言うと、森野にもマサユキにも一瞥もくれることなく大股に歩き出し、襖を開けて廊下へ出ていってしまった。
置いていかれた恰好になった森野はあわてて立ち上がり、倉に挨拶を述べた。

「あ…、では自分も、失礼いたします」
「ええ、はい、お構いもしませんで…」

いや充分に構われました、これ以上は結構…、などとは頭で思っても口には出さず、森野は深々と頭を下げた。そしてこれは森野の想像にすぎないが、山崎ならば言うだろう、
いや余計なことは考えなくていい、とにかく疲れた。ここにいたのは正味2時間くらいだろうに、とてもそうは思えないほど疲れてしまった。
これでやっと帰れる、そう思って森野は内心ほっと息をついた、しかし。

「お前さあ」

倉も森野も下げた頭を上げ終わらないうちに、マサユキが口を開いた。またおかしなことをしでかさないよう、倉が素早く間に入る。

「お気になさらず、ささ」
「いえ、…はい」

倉が行けというので、森野は小さく頷き、再び廊下を歩き出そうとした。しかしマサユキは構わず喋り続ける。

「あんま人って信じるもんじゃねーよ?」

狂気のマサユキが突然発したその言葉は、天よりこぼれ落ち水面を穿つ雨粒のように森野の胸へと突き刺さり、そして幾重もの波紋を描き出した。
その波紋は気の乱れとなって全身へ伝播する、皮膚がざわつく、寒気にも似た感覚が森野を襲う。
何だ、何を言っているんだ、何を言われているんだ俺は。何か心の隅にあるものを読まれたのか、単なる一般論なのか。いや、それ以前に、その言葉に何か意味はあるのだろうか…?


[NEXT]
[TOP]
[BACK]

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル