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殴られるくらいのことは覚悟で、岸は立て続けに問うた。どうしても答えが欲しい。この男を少しでも理解したいと思った。
なぜなら、少なくとも岸にとって…、帆足は噂に聞いていたほどに理不尽な男ではなかったからだ。
帆足とは賛否の分かれる男だ…、その理由は今の岸にはとてもよくわかる。しかし岸はどうしても、彼を真っ向から否定する気になれない。
やり方は確かに人道的でない、しかし、人の謗りには耳も貸さぬ生き様、目的に向かって最短距離をゆく胆力、そして何より、圧倒的な強さ…、それらがすべて焼け付くように眩しく、強烈に胸を揺さぶる。
だからこそここは重要なのだ。鬼神の類には違いない、だが果たして本当に、そこらで言われているような、単なる殺人鬼にすぎないのか。
「ここは文京の基地から近い。一人でも生かしといて、何かの手段で助けを呼ばれたら、撤収が間に合わないかもしれんと思った。
それに、こんな場所で、これが所沢の俺達の仕業だってバレたら…、わかるだろう」
「…文京の、報復を」
「そうだ。だから殺した。ついでに言うと…、銃を使うなっつったのも同じ理由だな。残された銃弾から足がつくこともある」
「申し訳ありません」
「もう使っちまったもんは仕方ねぇ。俺に謝られてもどうにもならん。謝りたきゃ、総帥にでも謝れ」
「……」
果たして、得られた回答は明確で、かつ、岸が予想していたよりもはるかに冷静で合理的だった。つまりは、所沢解放戦線の利益を考えたとき、殺したほうがいいと思ったから――。
それを聞いて、岸は歩きながら考え込んだ。だから殺していいとはやはり思わない。自分はそこまでは割り切れない、が…、
帆足がそういう人間ならば、ここにひとつ、別の切り口がある。
というのはつまり、この場所でこのメンバーで文京軍に対しテロ行為を働くという、そのことを決めた時点ですでに、こうなることは大沼には初めから予想がついていたのではないかということだ。
仮にそうなら、彼ら文京軍の兵士を殺したのは帆足ではない。命令を下した大沼だ。
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