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「人数が多いのは、場所が場所だからだろ。目的がわからんにしろ、ここで盗みを働くからには、やり損じるとまずいからな。
もっとも、そんな大事な任務なら、数いるなかから力者をよこすのは、人選をミスってるとは思うがね」
「それは…、俺もそう思うよ。俺は実戦経験少ないし。岸者は見習いとしても、後は帆者がひとりいれば充分だろうさ」
「いや…、悪かったよ。ヘコむなよ」
「別にヘコんでやしないよ」
「岸者の前だからってミエ張んな」
「本当だって」
一見何気ないこの会話から、実は…、並んで喋っている3人が、解放戦線の幹部だということが伺える。
なぜなら、彼らは互いに本名で呼び合うことをせず、名前の1文字に「者」を付けて相互の呼び名とする習慣を持っているからだ。
まず、しきりに時計を気にしている若い男は岸者こと岸孝之。最近幹部になったばかりで、まだ手持ちの部隊がなく、従って、単独行動をしたこともない。
次の男は力者、小野寺力。主に広報を担当していて、幹部の中で一番、世間に知られた顔である。いつも頭巾を巻いており、そこに挿した大きな鳥の羽根がトレードマークだ。
最後、腕組みをしている男は帆者、帆足和幸。晩秋の夜というのに寒くないのか、半裸に袖なしの外套姿で、平然と突っ立っている。
彼はこの3人の中では一番年長で、組織としての俺達を概説するさいにはよく総帥に次ぐナンバー2と言われる存在だが、実のところ、ほかの幹部に比べ何か特別に権限を持っていたりはしない。
3人はつい3時間ほど前、突然総帥の招集を受け、そしてこの任を言い渡された。理由も目的も聞かされず、本当にただ、場所と時間と『輸送車両を襲撃しろ』という、たったそれだけ、言われたのだ。
その時点で既に時間が押しており…、その場で疑問を差し挟む暇はなかった。
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