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森野は憤りを感じた。血の繋がりがないとはいえ、兄と呼ばれる立場なら、弟がそういう性格になってしまったことに、全く無関係ではないはずだ。

「まったくそう思います、しかし、かといって、今更どうすることもできません。それに、正しいのはあの子です」
「どういうことですか」
「英心は実際に人を殺めているわけですから…、たとえ手段がどうなろうと、いずれ、止めなければなりません。それができるのはあの子だけです。
 英心も勝浩も、私にとっては同じ弟ですから、英心を殺すと言われて、私が首肯するわけにはいきませんが…」

ひと呼吸おいて、倉は言葉を続けた。

「世の中にはどうにもならないことがある。いいですか、繰り返しになりますが、正しいのは勝浩です。
 英心が何を考えているかはわかりませんが、行いは許されるものではなく、…先程はみっともないところをお見せしましたが…、本来、庇うべきではありません。
 勝浩は間違いなくあなたを認めています。だからこそ、お師匠さんに次ぐ敬意を払って、そして、ここまで連れてきたのでしょう。どうか、あの子を見捨てないでやって下さい」

ゆっくりとした静かな語調で、しかし一気にそこまで喋ると、倉は畳に手をつき、深々と頭を下げた。

「顔をお上げ下さい。自分にとっても…、永川は必要な相棒です」

適切な言葉をどうにか捜し…、森野はそれだけ口にした。自分は永川のことをよく知らないから、軽々しく信じますなどと言うことはできない。
よって、必要だ、というのが今ここでの正解に最も近いような気がしたのだ。

永川はもとより、倉もまた、スラィリーマスターによって人生を狂わされている。自分の弟どうしが命懸けで戦わなければならないなど、一体どんな気持がするのか、森野には想像もつかない。
スラィリーマスターに関わるというのは、どうも並大抵のことではないらしい。
…関わると不幸になるぞ。そんな陳腐なフレーズが、森野の頭の中に浮かんで消えた。


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