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赤から鈍色に変わる雲を見上げながら、ぽつりぽつりと永川は話しはじめた。

「こんなことはお師匠さんには言わないけどな。十で口減らし同然に、…親は違うって言うけど俺んちは兄弟が多いからな、いきなり寺へ出されてさ、何もわからんうちに訓練を受けて。
 十六のとき、お師匠さんが傭兵やめて道場やるからってんでここに預けられて、遊ぶ暇もないまま修業ばっかさせられて。やっと一人前になったかと思ったら、あいつが蒸発したんだよ。
 昔と違ってスラィリーも増えてるとはいえ、二人いればある程度自由もきくし、何も問題ないはずだったのにさ」
「なにか、やりたいことがあったのか」
「うん…、笑うかもしれないけどさ。進学したかった。でもできなかったんだ。
 お師匠さんがそこらへん無頓着でね。あの人は学校に行って勉強することの価値とかがわかってないんだよ、自分がろくに学校行ってないし、それで困ったこともないみたいだから」

笑いはしないが、森野は意外に思った。森野自身、十八で軍に身を投じているくらいだから、学校なんて何もすることのない奴が行くところだと思っている、おそらく前田も同じような考えなのだろう。
それに、永川ほどのハンターなら、前田と同様だろう、仮に学がなかったところでなにか不自由があるとも思えない。

「勉強して、何するんだ」
「何ってわけじゃないけど。好きなんだよ、そうとしか言い様がない。俺は英心より不器用だから、何するのも時間がかかってね。
 お師匠さんは全然配慮してくれないし、修業に暇をとられすぎて、正直、高校もやっと卒業した。
 そんなんだから、やまちゃんなんて高校も行ってない。もっともあいつは勉強が好きじゃないみたいだから、それでいいんだろうけどさ。
 お師匠さんのことは勿論尊敬してるよ、してるけど…、でもそこんところだけはな、正直、どうかと思う」


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