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ああ、それでいい、頭打って忘れたことにして貰って全然良かったのに。余計なこと言ってくれちゃって…。
こういう時どうしたらいいんだろう。バッさんだったらこういう場面でも無難に切り抜けちゃったりするのかな、あんな顔して。
顔を上げると、新井が怪訝そうな顔でしっかりとこちらを凝視している。
仕方ない、こうなったら腹をくくるしかない、腹をくくるって、でもどうやって…、
……、
………、

「と、トランプでも、と思って」
「トランプ!?」

CPUを100%振り切った荒木の頭脳は、一瞬、本人の意識の制御を離れ、明後日の方向からあらぬ答えを持ってきた。
軍服の内ポケットから名刺のようにスッと差し出されたトランプの箱と荒木の顔を交互に見ながら、普段は落ち着いているはずの上田が明らかに狼狽した様子を見せる。

「な、なぜ、トランプを持ち歩いておられるので」
「いやっ、別に、ラ、ラッキーアイテムだから?」

上田の当然の質問に対し、ようやく制御を取り戻した頭で荒木は謎の答えを返した。答えとしては実際これ以上何も出てこない、
トランプを常時携帯していることに合理的な理由なんてあるわけがないが、果たしてこれで答えになっているのだろうかという気持ちが無意識に語尾を上げさせる。
お互い不測の事態に直面しフリーズする二人。その様子をしばらく眺めたのち、新井が口を開いた。

「なあんだ良かった、てっきり怒られるのかと思いました。そういうことなら、どうぞですよ、汚いですけど」


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