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名古屋の危機、それを救うためにロボット兵器の修理代を稼ぎたい。確かに森野はそう言った。
しかし、青木の話を聞くに…、名古屋はすでにそんな悠長なことを言っていられる状況ではなくなっているのではないのか、と永川には思われた。
仮に今日明日スラィリーマスターを捕らえたところで、即日賞金が支払われるわけではない。ましてビッグ・ドメは原子炉に異常があると森野は言った。
永川は機械、工学の類にはまったく無知であるけれども、それが、金が入ったからといってすぐに直して戦線に送り出せるという性質ものではなさそうなことくらいは見当がつく。
つまり、ここでの賞金稼ぎに成功するかどうかは、少なくとも今回の戦いの行方には関与してこない…、
ならば森野とドアラ、あの二人が現場にいるほうが、断然戦力になることだろう。
それなのに…、そんな間抜けな命令を、難攻不落と名高い名古屋防衛軍が、果たして、下すものだろうか…?
「まあ、聞きたいことがあるなら、黙って待ってることもない。こっちから問い合わせてみればいいことだ」
「…いや」
…青木のその言葉を聞くと同時に永川は、脳髄の奥、頭頂の近く、ピンと光が走るのを感じとった。
森野が今現在も軍属の、まぎれもない軍人かどうか、それは確かめる術がないが、少なくとも…、これは軍の命令ではない。きっと森野の独断だ。
その森野がなぜ今、故郷の危機のさなかにわざわざ広島くんだりまで悠長に、ロボットの修理代なんぞ稼ぎに来たのかはわからない、そんなものは後で本人をつかまえて聞いてみればいい、
しかし、ひとつだけ今ここで、はっきりと推測できることがある。
永川が知らなかっただけで、またあるいは森野が見得かなにかで嘘をついていて、その実すでに軍人でないのだとしたら、問題は何もない。
しかし、仮に森野が退役しておらず、軍属のまま持ち場を離れてきているのだとしたら…、つまり、彼は脱走兵ということになる。
その所在が知れれば、名古屋防衛軍はただちに広島自衛隊へ身柄の確保を要求してくるだろう、
そして、ただちに名古屋へ強制送還されるに違いない…!
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