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「アワハラの、神」

耳慣れないその名を、永川は復唱した。それを受けて青木が説明を加える。

「俺達の間で信仰されている炎の神様さ。堕落した世をその業火で焼き払うと言われている」
「聞いたことないな…」
「まあ、そりゃそうだろう。言い出したのは総帥だ。なんでも昔、夢で神託を頂いたらしくて、あいつが所沢政府を打ち倒すべきだと考えるようになったのもそれ以来らしい。身体から火が出るのも、アワハラの神の御加護だそうだよ」

にわかには信じがたいその話に、山崎が目をぱちくりする。

「神様の?そんなことってあるんか?」
「まさか。それは、本人の持って生まれた資質にすぎない。何らかのきっかけで気が自在に使えるようになった、それがたまたま神様の夢を見たタイミングと重なっただけの話だろう。大体、神様ってのは、そう都合よく奇蹟を見せちゃくれないもんだ」

永川はつまらなそうに持論を展開した。実際、ある日突然能力に目覚めて、神から力を得たとか言って師の道場へ駆け込んで来る輩は多いが、そのたび、永川は思うのだ。
どうせ神仏とまともに向き合ったこともなく、自分を極限に追い込んだこともないだろう。何の変哲もない平凡な生活を送ってきて、突然神に選ばれただなんて、おめでたいにも程がある。
これまでにほぼ修業しかしたことのない俺にだって天啓がない…、しかるに、なんでお前なんか神に相手にされると思うのか。理由がない。馬鹿馬鹿しい。

「キミらに言わせりゃそうなんだろうけど、本人はそう信じ込んでるんだよ。それに広島に比べりゃ、向こうは能力者も少ないしな、神の奇蹟と言い張ったって充分に通用するってわけだ」
「ああ、そういや…、僕もそやったわ。お師匠さんに会う前の事やから、気が使えてるとかそもそも知らんし、
 今と比べたらほんま、大したことあらへんけど、小さい頃から身のこなしがめちゃめちゃ軽くって。神童や、ちゅうて親父もすっかりその気になっとったもん」


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