077
森野は今までにない感覚に戸惑っていた。全身を覆う気を、気の流れを感じる、それが右手に向かって集約していくのを感じる。
そして…、うっすらとだが、見えるのだ。山崎の全身、随所から陽炎の立ち昇るのが。湧き出す気が渦を成しては天の方向へ昇ってゆく。
いや、仮にそれが見えなくとも、山崎を取り巻く気の流れが変わったことを、きっと森野は察しただろう。先程までとは目つきが違う。
しかし、森野も武器を手にした。リーチは布団たたきとは比べ物にならない。
いよいよ一撃を加えることが難しくなった山崎は、身体能力を最大限に生かして逃げに徹してくるだろう。捉えられるか。
一瞬の逡巡ののち、森野は山崎目掛けて突撃した。槍とはそういうものだ。小細工は似合わない。
先程の感覚を思い出しながら、右手の、その先へ意識を集中する…、再び手のひらが熱くなる、そして突きの瞬間、バチィ!という電撃の走るような音と衝撃と共に、再び槍が発現する。
同時に山崎はまたバック転で後ろへ跳んだ。さらに踏み込んでくる森野。
ただ跳んで逃げるだけのことなら、おそらく、逃げに徹した山崎を捉えることは不可能だが、今は道場という制限がある。この広さでは森野との距離はせいぜい5〜6メートルしか取れない。
床に手をついて壁ぎわに着地した山崎は、そのまま四足で真上へ跳び上がった。
そして前田の言ったとおりに人の背丈の倍ほど、もう少しで梁に当たるギリギリの高さでまた宙返りをして、壁を蹴って森野の背後へ、
すれ違いざまに森野の脳天へ蹴りを食らわそうとするが、森野はそれをしゃがんで避ける。
また着地を狙って森野は槍で足元を払うが、山崎は巧妙なステップでそれをかわすと、横っ跳びして距離を確保する。縦横に跳ね回る姿はまるで豹のようだ。
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