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「大体広島といやあ、うちの軍事勢力下どころか、中立都市じゃないか。ろくに諜報員も入ってない。人探しなんて、対立勢力内より厄介だぞ」
「…そんな事はわかってますよ。その上でどうするかっていう話をしたいんですが」
再び畳み掛けるように言葉を重ねる立浪に、井端は珍しく、少し苛立ちを見せた。しかし立浪は動じない。
「わかってねえな。森野をかばいながら秘密裏に捜索しつつ、なおかつ戦線を維持するのは無理だ。ここが落ちたら市街地は目と鼻の先だぞ。
 井端、お前が森野を買ってることは知ってるが…、いいか、俺らは名古屋防衛軍だ。
 何が一番大切だか、そんなこと今更言わなくても、知ってんだろがよ」
立浪の言うことはもっともだった。しかし井端の目に狂いがなければ、森野は確実に、これからの名古屋防衛軍を背負って立つ人材である。
ただ、ひとつ、彼には大きな欠点があった…、それは本人がその自分自身の価値にまったく鈍感であり、自分を大切にしようとしないことだ。
そしていま、その欠点が、致命的な形で表出している。
「俺も同意見だな。それに、改めて言うようなことじゃないが、嘘はいつまでも通せると思わないほうがいい。
 問題が表面化したときのことを考えてみろ。中佐と森野だけの問題じゃないぞ」
井上が立浪に同調する。当然、挙げられたリスクに気づかない井端ではないが、他人に改めて言われることで、その重大さがリアリティを伴い、ズシリと肩にのしかかってくる。
だが…、そもそも、東で足りなければ西から借りればいいとか、そんな簡単な話でいいのだろうか。他に考慮すべき要素は。そして選択肢はないのか。

しかし会議は依然として紛糾しており、とても冷静に議論ができる状況ではなくなってしまっている。井端は不意に頭痛を感じ、右のこめかみを押さえ込んだ。
その井端の姿に荒木は心を痛めたが、さりとて、どうすることもできない。
(バッさん!どうか頑張って下さい!きっとどうにかなりますよ!)
荒木は机上に両の拳を握りしめ、心の中で井端に向かって精一杯の声援を送った。だが、それは当然のこと、井端の耳には届かないのだった。


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