039

そこまで一気に喋ると、一息ついて、前田はプリンをすくって口へ運んだ。
「まあ、少し脱線した話になったが、スラィリーハントのざっとした歴史は、そんなもんじゃ。
 しかし、ここ三次はスラィリーの多く棲む山が近うての。はぐれたスラィリーが里へ降りてきて、人を襲うことも、まれにじゃが、昔からあったんよ。
 …お前さん、スラィリー折伏の総本山て、知っとるか?」
「名前だけは、存じております。たしか『梵倉寺』と」
「そうそう、それじゃ。その寺にはの、昔から、スラィリーに対しては必殺の、絶対的効力をもつ折伏の秘術が伝わっとる。
 スラィリーが里に現れるようなことがあれば、間違いなく撃退できるようにと、寺に生まれた子供に代々伝えられてきたんじゃな。
 これは気の修業と違って、まだ子供が幼いうちから徹底的に叩き込まんとならん。ワシャ理由は知らんが、大人になってからでは身につかんもんらしい」
前田の話に何度目かわからない相槌を打った森野は、ふと隣のドアラが飽きてきている気配を感じた。無理もない。しかし話はおそらくここからが佳境である、森野は悪いと思いながらもドアラの尻をつねって我慢を促す。
「そんで、寺には子供がひとりおった。名前は英心、言うての」
それを聞いて、森野はハッとした。それはさっき永川が口走った名ではないのか。
しかし森野の表情から気配を察したのか、前田は森野が口をひらく前に、その疑問を制し、続けた。


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