034

「ドアラマスターと組む、か。成程な。しかし、組んでどうするつもりなんか、もう少し具体的に聞かせて貰わんことには」
「勿論です。それを今から話します。話しますが…」
そこまで言って、永川は一度言葉を切った。廊下から山崎の足音が聞こえてきたためだ。
「やまちゃんに聞かれたくない部分が、少し…」
「ふむ」
声を低めて言う永川に、前田は訳知り顔でうなずく。そして程なく、襖ごしに山崎の声がした。
「お茶と菓子、お持ちしました」
「ご苦労」

盆に載せてきた5人分の紅茶とプリンを配り終わると、山崎は上座の前田の隣へ座ろうとする。それを制して前田は言った。
「こら、お前は掃除が途中じゃろ。ちゃっかり自分の分まで用意してきおって」
「ええー、後でちゃんとやりますよ。そんな、厄介払いせんかっても、ええやないですか」
いくらなんでも先刻の永川の言ったことが山崎に聞こえているはずはないから、言葉のあやには違いないが、『厄介払い』という言葉が出たことで永川は内心ヒヤリとした。
偶然だか勘がいいのか判然としないが、山崎は昔からこういうことがよくあるのだ。
「いけん。物事には順序があるけえ、お前は掃除が先じゃ」
「じゃあ、プリンは…」
山崎はいっそう不服そうに口をとがらせる。
「…そんなもん、やること終わってから食うたらええ事じゃろ。そんな顔するな」
「わあ、ええんですか!やったあ、ほんなら、失礼します!!」
さっきまでの顔はどこへやら、パッと顔を輝かせると、自分のところへ置いた紅茶とプリンを目にも留まらぬ速さで盆へ回収し、山崎は部屋を出て行った。


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