032

「さて、そんじゃあ、そっちの用事を聞こうかの…」
前田は腕組みを解いて、机に片肘を乗せると、永川のほうへ体を向けた。
「ただ客人を連れてきたわけでもなかろ。お前がここへ顔出すんは、厄介ごとの時と決まっとるけ」
「いや、まあ、そんな。ハハハ」
伸ばしたもみあげを人差し指でポリポリと掻きながら、永川は人懐こい笑顔を見せた。
「図星か。そんで、何事じゃ」
「英心を…、いや」
耳慣れない名を永川が口にしたその瞬間、前田の表情がさっと険しくなるのを森野は見逃さなかった。
「スラィリーマスターを、討伐に参ろうかと思いまして」
「何じゃと」
「討伐に参ろうかと思いまして。スラィリーマスターを」
「ひっくり返して言わんでもええ。大体何を寝ボケとる、まさかわからんのか、今のお前じゃ、彼奴の相手にならんぞ」
「わかってます。しかし、時期を待とうにも、予想に反して、あいつは年々力をつけるばかりで」
「それは…、確かにの…」


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