009

――広島は他都市から地理的に離れていることと、幸か不幸か、さほどの資金力も軍事力を持たないため、
そういった有力な都市から直接標的にされることはほとんどない。
しかし、距離こそ若干離れてはいるものの、隣に位置する西宮は近年その版図を広げることに積極的であり、
そこにその巨大兵器が配備されることになれば、広島も無関心ではいられまい…、
勿論、広島の住人である永川としても、それは歓迎できた話ではないが…。
永川は腕組みをしたまま黙った。名古屋の防衛に関する話を熱っぽく語る森野の背後で、ドアラがヨガのようなポーズをしている。茶は御気に召さなかったのだろうか。
大体、あんなでかい頭で、一見どうやっているのかわからないような姿勢を。こいつ、ものすごいバランス感覚だ…、
「おい、聞いているのか」
「あ、ああ、聞いてる」
覚えずもドアラに気を取られていたところを森野に突然咎められ、永川はハッとした。
こんな長い話はどうせ一度に全部相手にできないし、とりあえず、きちんと聞いていた部分に対して意見を述べれば問題ない。
「しかしだ、それは、まとまった金といっても、随分…」
「……」
「いくらスラィリーと言ってもな、二頭や三頭、いや、仮に十数頭を仕留めたとしても、億の金にはならないぞ」
永川は眉間に皺を寄せて言った。スラィリーハントでワンシーズンに稼げる金は、実力があって、かつ運が良くても数千万のレベルを超えない。
現実的に考えるなら、ドアラマスターに、永川が加担しても……、三、四千万程度だろう。いくらなんでも、そんなことくらい分かっているだろうに…。
しかし永川は不幸にしてその頭の中に、真剣な顔をして故郷の窮状を語る目の前の男をなぐさめるために有効そうな、気の利いた言葉を持ち合わせず、
そのまま黙して相手の言葉を待ち、冷めかけた茶をすすった。


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