ゆらゆらと道の向こうの空気が揺らめく。
オリヴィエはそれを十五の年に初めて知った。
自分の目がおかしくなったかと一瞬思い、
こんなに暑いのだからそれも当然かと納得をした。
何もかも故郷の冬とは違う主星の夏。纏う熱い空気を祓う術もなく、
白い肌を焼く太陽を恨めしく思うばかりの午後。
坂の向こうへ立ち上る熱気が後ろの景色を歪めて見せていると気付いても、
オリヴィエはそれに魅せられたように眉を顰めてじっと見た。
焼けた石畳を夕立の雫が叩く匂いと共に、それは彼の脳裏に強く残っている。
聖地にも、飛空都市にも、彼の苦手な酷く暑い夏はない。
けれど時折オリヴィエは彼女の周りにそれを見た気がした。
オリヴィエはふっと口元を緩めて笑みを漏らす。
ああ。今度こそ、おかしいのは自分の目だ。
「あんたさ、アンジェリークを避けてるだろ?」
彼の言葉にロザリアが怯み、
正面に座る彼から目を逸らしたのをオリヴィエは横目で見た。
オリヴィエは組んだ足を揺らして手にしたグラスに口を付ける。
近頃は冷たい紅茶ばかりを彼は好んで口にしていた。
人の入りは少ないお昼前のカフェ。
手にした本を一人静かに読むロザリアのテーブルへ、オリヴィエは賑やかに、
有無を言わせず同席したのだった。
「育成であのコにリードを許したからって、
ソレはないんじゃないの? 今までずっとあんたに負けてたアンジェリークが、
あんたにそんな態度取った事あったっけ?」
ロザリアは彼の顔を見ず、
手にした本へ目を落とし唇を噛んだ。その様子を見ながらオリヴィエはテーブルに肘を付き、
組んだ手の上に顎を乗せる。すると腕輪がシャラリと綺麗な音を立てた。
「否定はしないんだね。つまりは、やっぱり避けてるって訳だ」
青い髪の女王候補は育ちのいいお嬢さん。頭の回転は速く物事の道理もよく弁えている。
守護聖たちの受けも良く、すぐに女王に立ってもおかしくないほどの気品も備えている。
見た目も美しく、オリヴィエはその容姿と気の強い性格が気に入っていた。
けれど反対に。苦労も世の中の暗い部分も知らない彼女は綺麗なお人形さん。
それはオリヴィエの心に黒い感情を呼び起こす。彼女を貶め苛めてみたい。
綺麗であればあるほど、自分の手で汚してみたい。
自分にもある暗い部分に気付くのは歓迎する事柄ではなく、
オリヴィエは結果ロザリアへはいつもよりもテンション高く接するのが常だった。
けれど今日はいつもより真面目に彼女を見る。
いつも必要以上に元気なもうひとりの女王候補。オリヴィエは彼女の事も気に入っている。
それは彼にとってロザリアへ向ける気持ちとは違い、からかいがいのある妹のような存在。
けれどそのアンジェリークが、
彼女らしくなく金の頭を俯かせ佇んでいるのを見てしまったからには。
「オリヴィエ様。お節介ですわね」
視線を自分のカップに留まらせたままロザリアは呟く。それは彼を責める声音では全くなく、
溜め息と共に出た台詞に見えた。ふっとオリヴィエは笑みを浮かべる。
「だね。でもさ、答えがソレって事は、あんたが一番良く分かってるんだね。
自分の理不尽さを」
ロザリアはどの守護聖とも万遍なく交流している筈だ。自分を含め、
苦手として避ける相手もないものの、その代わり突出して仲の良い守護聖もいないようだ。
完璧な女王候補として完璧に築かれた人間関係。
彼女は顔を上げてオリヴィエを真っ直ぐ見た。それは不思議そうな、
まるで初めて彼を見たかのような表情。オリヴィエはその紫がかった青い瞳を見返す。
ああ、綺麗だね。
彼女のその瞳、その姿以外の目に映るものがゆらゆらと揺らめき、
オリヴィエは目を見開く。彼女だけが視界の中ではっきりとした輪郭を備えていたが、
ぎゅっと目を閉じてから目を開けると揺らめきは消えた。
彼を見るロザリアの眉が悲しげに寄せられ唇が僅かに動いたが、その呟きは小さかった。
とても小さかった。けれどオリヴィエには届いた。
「たすけて」と。
だがオリヴィエは聞こえなかった事として、ん?
と問う表情でロザリアへ体を乗り出した。
するとロザリアは視線を彼から外して首を緩く振る。
そんな彼女は十七というその年齢よりずっと大人びて見えた。
ダメだよ。今の私に助けを求めても、きっとあんたを苦しめてしまう。
縋る手を取っておきながら、暗い夜へとあんたを沈めてしまう。
そう思う心の半分で、彼女のために何かしたいとも思う。
オリヴィエの内ではそれは矛盾ではない。
「お節介ついでにさ、
これから一緒に散歩でもしないかい? あんたは色んな事を重く考えすぎなんだってば。
もっとふっわふわでもいいんじゃな〜い?」
言いながらオリヴィエが黒いふわふわの羽根のショールをロザリアへ示すと、
彼女はやっと小さく笑った。
「オリヴィエ様はふわふわが過ぎませんこと?」
オリヴィエは横目でロザリアを見て口の端を上げる。
「おーや。口は軽くなったみたいだね。じゃ、その調子でちょいと女王候補をさぼって、
私とデートでもしてみよっか?」
仕方ないですわね。そう言いながらも彼を見返すロザリアの瞳は柔らかく煌いた。
「ふわふわの秘訣を、教えていただける?」
微笑むロザリアは可憐で年相応に見え、オリヴィエは微笑み返し、もちろんさ、
と受け合った。
「オリヴィエ様、最近ロザリアと仲がいいですね!」
緑の瞳の女王候補が夢の守護聖の執務室を訪れ、金の髪を揺らせて微笑む。
つられて笑顔になってしまうような明るい微笑みの前で、
オリヴィエは片目を瞑ってみせる。
「おやおや、あんたから指摘されちゃうようじゃ、
私とロザリアは秘密の関係ってのとは程遠いらしいや」
すると楽しそうにアンジェリークは笑い声を上げた。
彼女の言う通り、
ここ暫くオリヴィエはロザリアと「ふわふわ指数」向上のためよく出掛けていた。
ロザリアが出掛ける所として選ぶのは、公園など人のたくさんいる場所が多く、
自然彼ら二人が親密さを増していくのは飛空都市の人々の知るところとなっている。
「ロザリア、一時期とってもピリピリして、わたしの事も避けてたくらいだったのに、
今なんだか肩の力が抜けたように見えるんです。それって、
オリヴィエ様がそばにいらっしゃるから、ですよね」
だから、ありがとうございます。そうぺこりとお辞儀をするアンジェリークを前に、
オリヴィエの瞳は一瞬暗い色を宿した。
けれどそれを彼はアンジェリークが頭を上げる前に楽しげな笑みへと替える事に成功した。
「あれ、ま。お礼言われちゃうなんて、まるでロザリアがあんたのものみたいじゃないか。
それって私、喜んでいいのかね?」
大袈裟に肩を竦めて言えば、楽しげなアンジェリークの緑の瞳がくるくると輝く。
「ロザリア、前よりもっと綺麗になったみたい。だからオリヴィエ様、
ロザリアをよろしくお願いしますね!」
ああ、物事がいっそそのくらい簡単ならいいのに。
周囲の誰も、彼女の胸の内にも私の葛藤にも気付かない。
気付いて欲しくはないのに、誰かに止めてもらいたいなんて虫が良すぎるね。
一瞬眉を寄せたオリヴィエを、アンジェリークが不思議そうに見たので、
すぐに彼は口の端を上げた。
「女の子が綺麗になるのは大歓迎!
でもさ、ねえねえ、私も綺麗になった、って誰か言ってくれないかなあ〜」
アンジェリークは吹き出し、声を上げて笑う。
「オリヴィエ様はいっつも綺麗だから大丈夫ですよ。それ以上綺麗になっちゃったら、
ロザリアもわたしも困っちゃいます」
オリヴィエもそれに合わせてテンション高く、
きゃは、困ることないだろう? と笑った。
午後の執務室へ柔らかな日差しが差し込む。
大きな鏡の前でオリヴィエはロザリアの髪をアップにしてアレンジを施していた。
「大陸の建物の数、あんたのほうがまた持ち直したんだね。先週はがんばってたものね」
オリヴィエはロザリアの後れ毛をピンで留める。たっぷりとした青い巻き毛は艶やかで、
ずっと触れていたいほど柔らか。
「ありがとうございます。守護聖様がたのお力添えのおかげですわ」
返すロザリアの声音は、けれどあまり柔らかではない。
オリヴィエは眉を上げて鏡の中のロザリアを見るが、
彼女は微妙に彼から視線を外したまま。彼女の反応へ構わず、
オリヴィエはまた話題を振る。
「肌の調子いいみたいだね。ちゃんと眠れてる? それから、オリヴィエ様直伝の洗顔法、
ちゃあんと実践してるだろうね?」
ロザリアはやっと微笑むと、先生の仰る通りにしておりますわ、と顎を上げる。
気の強い少女の反応に、オリヴィエも思わず微笑んだ。
オリヴィエは高い位置で纏めた髪からひと房を取ると、
それに水色のリボンを編み込んで行く。
そしてそれを纏めた部分の周りへくるくると巻き付けた。
鏡を通してロザリアはそれをじっと見ている。
ノックの音が響き、オリヴィエはそれへ、どーぞぉ、開いてるよお、と返事をした。
「わ、ロザリアってば、オリヴィエ様に髪のセットしてもらってるの」
部屋の主への挨拶も飛ばして、金の髪の女王候補が鏡の前へ駆け寄った。
「あなた、オリヴィエ様にご挨拶もまだじゃないですの。
もう、しっかりしてちょうだい」
呆れて言うロザリアへ、えへへとアンジェリークはごまかすように笑い、
それでもオリヴィエに向かってこんにちは、とお辞儀する。はいはい、こんにちは、
オリヴィエも笑ってそれに答えた。
「そう、オリヴィエのビューティーサロンが開店中だよ。今ちょっと手が離せないんだけど、
育成の依頼かい?」
それへアンジェリークは首を振って否定を示す。
「育成の依頼はもう済ませて、ロザリアはどこにいるのかなーって探したんです。
やっぱりオリヴィエ様の所だった!」
その言葉にロザリアがオリヴィエを振り向き、彼と視線を合わせた。
確かにアンジェリークの言う通り、
最近執務のある日でも特に約束をしなくとも二人は一緒に過ごす事が多い。
ロザリアの白い頬が薄っすらとピンクに染まり、
それを隠すように彼女はすぐに椅子を正面に回して心持ち俯いた。
けれど鏡はそれを隠さずにオリヴィエへその姿を晒す。
「美しくあるためオリヴィエ様のお話を伺うのは、有意義ですわ。それはもちろん、
オリヴィエ様の、あの、お邪魔になっているんではないと、よろしいのですけれど」
オリヴィエはすぐに受け合った。
「なにさ、当ったり前じゃないか。
可愛い女の子をもっと綺麗にできる手伝いができるなんて、サイコウ!
実は執務なんか放って、そっちメインにしたいくらいだよ」
オリヴィエは後ろから屈んでロザリアの顔の横へ顔を寄せ、鏡の中へウインクを放つ。
先程より顕著にロザリアの頬が赤くなり、オリヴィエは口の端を上げた。
「オリヴィエ様、ここで見ててもいいですか?」
アンジェリークが横にある椅子へ既に腰を落ち着けながら笑い、
オリヴィエは手をひらひらとそちらへ振る。
「もっちろん。あ、そこのワゴンからお茶でもなんでも飲んでてよ。セルフでね。
ロザリアが終わったらあんたの髪もやったげる。どう?」
わあい、とアンジェリークが手を打ち合わせ、
その遣り取りにロザリアはくすくす笑った。
夢の守護聖のビューティーサロンはそれからも何度も開かれ、時にはお茶の傍ら、
アンジェリークと共に年少守護聖たちも集っていたりもした。
ついでに強引にサロンのお客となりそうになったマルセルが大慌てで逃げる、
という一幕もあった。
オリヴィエとロザリアがそうして近付いていくのを、
聖殿の者、飛空都市の者皆が見守っていた。
「おや。今日は誰も先客がいないようだねぇ」
その日の曜日、オリヴィエとロザリア二人が訪れた森の湖には誰の姿もなかった。
そこには緑の守護聖が彼の青い鳥と戯れていたり、鋼の守護聖が昼寝をしていたりもする。
飛空都市で暮らす人々も日々の疲れを癒しに足を運ぶ場所だ。
飛沫を上げる小さな滝は、森の木々と共にその場所の空気を綺麗にしているよう。
ロザリアは祈るように組んだ指を顎に当て、じっと滝を見つめている。
そしてオリヴィエはそんな彼女を言葉なく見つめた。
ゆらゆらと彼の目にロザリア以外のもの全てが揺らいで映る。
振り向いたロザリアがオリヴィエを見上げ、問う視線を向けた。
「あんたが綺麗で、見惚れてただけ」
微笑んでオリヴィエがそう返すと、ロザリアの白い頬が上気し、
ぷいと彼女は滝へと視線を戻す。
「オリヴィエ様はどなたにもそうやって仰いますの?」
拗ねた声音にオリヴィエは眉を上げた。
「まさか。オスカーじゃあるまいし」
薄っすら赤くなった頬でロザリアは長く細い息をつく。
二人の間にあった短い距離を詰めたのは、ロザリアだった。
きつく巻かれた縦ロールが揺れ、髪の香りがオリヴィエへ届く。
ロザリアは彼の胸へ顔を伏せて身を寄せた。細い腕がオリヴィエの脇から背へ回されると、
その拍子に彼の腕に掛けられていた羽根のショールが滑り落ちた。
「ロザリア……」
オリヴィエが彼女の腕を掴んで柔らかな体を離そうとすると、
ロザリアは逆に彼の背に回した腕に力を込めて頬をぴったりと胸へ付けた。
ロザリアの吐く息が布地を通してオリヴィエへ熱さとなって届き、彼の胸を締め付ける。
「ダメだよ、ロザリア」
オリヴィエの金の髪がロザリアの頬へさらりと落ち、彼女は眉を切なく寄せる。
拒絶の言葉が逆にロザリアを煽ると知りながら、オリヴィエは彼女の耳へそれを注ぐ。
腕を緩めたロザリアは彼を見上げて首を振った。その頬は柔らかなピンク色に染まり、
青紫の瞳は濡れて揺れる。オリヴィエの腰から離れた細い腕が、
今度は彼の肩へと伸ばされる。そして顎を上げたロザリアの瞳が、
意を決したように閉じられた。
キスを待つ唇。
オリヴィエはロザリアの頬を両手で包み、けれど彼女の額へ唇を落とした。
「オリヴィエ様」
先程よりも強めに首を振り、ロザリアはオリヴィエの首へしがみ付いて背伸びをする。
そして彼の唇へ触れるだけのくちづけをした。
「ダメだって……言ってんの、に」
苦しげな声にロザリアが瞬きしてオリヴィエを見上げると、
彼の手がロザリアの顎を捉えてキスを返した。けれどそれは触れるだけのものでは、
もう有り得ない。
食むようにオリヴィエの唇がロザリアのそれを柔らかく味わった。ゆっくり、
とてもゆっくりオリヴィエの舌と唇が彼女の唇を愛撫するのに合わせ、
ロザリアの唇が開いて行く。
「……ん、っふ」
深くなったキスに怯むようなロザリアの息遣いが、
オリヴィエの舌の動きを緩やかに促す。怖がる甘い舌を優しく、
けれど許さずに絡め取る。
急にその唇を離したのは、草を踏む音と人の気配を感じたため。
オリヴィエが肩越しに振り向くと、聞き馴染んだ明るい声が二人へ掛かる。
「おはようございます! オリヴィエ様。ロザリアも一緒ですか? わぁ、デート?」
輝くばかりに微笑み、金の頭を揺らす彼女の後ろに立つのは水の守護聖か。
オリヴィエは屈んで、先程落としたショールを拾い上げた。
「おはよーん、アンジェ。それ言ったらあんたたちだってデートだろ?」
明るい声を上げたオリヴィエとは逆に、彼の腕に掴まったロザリアの手に力が篭る。
足に力が入らないようで、オリヴィエは彼女の腰に手を回して細い体を支えた。
アンジェリークはリュミエールとくすぐったそうに微笑み交わす。
「エリューシオンもあんたと同様、がんばってるみたいじゃないか」
オリヴィエがそう振ると、はい、とアンジェリークが嬉しそうに頷いた。
「エリューシオンの民が元気でうれしいんです。フェリシアの発展に負けないくらい、
ぴったり追い掛けてて」
びく、とロザリアの背が震え、オリヴィエの手にそれが伝わった。
「どうしたのですか、ロザリア? 足でも痛めたように見えますが」
リュミエールが、オリヴィエの影になっているロザリアの様子を気にして問い掛ける。
「あらら。足挫いたんじゃないだろうね。私にちゃんと掴まって。ホラ」
オリヴィエがロザリアを気遣う声を上げると、大丈夫ですわ、
とロザリアはリュミエールへお辞儀して返した。
「調子悪いみたいだから、お先に退散するよ。あんたたち二人はゆっくりしてって」
リュミエールとアンジェリークへひらひらと手を振り、
オリヴィエはロザリアをエスコートして森の湖の出口へ向かう。オリヴィエ様、
ロザリアをお願いしますね、笑顔で言うアンジェリークへオリヴィエはウインクを返し、
そこを後にした。
言葉のないまま腕を貸し、オリヴィエとロザリアは先程来たばかりの道を戻る。
まだ昼までにも間があったが、
分かれ道でオリヴィエは女王候補の寮へと続く道を選ぼうとした。ところが、
オリヴィエの腕へ掛けたロザリアの手が彼を引き、彼女は俯いてそこへ佇む。
「ダメだよ」
ロザリアが言う前にオリヴィエは拒絶の言葉を口へ上らせた。
だがロザリアは俯いたまま小さな声を漏らす。
「お願い。オリヴィエ様のお屋敷へ。わたくしを」
さすがに躊躇で口篭ったが、暫く途切れさせた言葉をロザリアは継ぐ。
「わたくしを、さらって」
微かに震える顎をそれでもきっぱりと上げ、ロザリアはオリヴィエを見た。
濡れて揺れる青の瞳。オリヴィエはそれから視線を逸らせないまま、悲しげに目を細める。
「あんたの望むようには、私はしてあげられない。あんたはきっと後悔する。
苦しめるのが分かってるのに近付いたのは、私がいけなかったよ。けどね」
ロザリアは屈辱を受けた顔で頬を染め、首を振った。
「わたくしがこれだけ言って拒絶なさるの? でしたらもう、今日を限りにわたくし、
恥ずかしくてあなたにお会いできませんわ」
そう。そうだろうね。そしたらあんたは他のヤツと。
オリヴィエは眉を寄せて暫く黙り込む。だが結局ロザリアの手を取り歩き出した。
彼の私邸へ続く道へと。