寮の食堂へ夕食を摂りに降りてゆくと、
ロザリアが腰に手を当て仁王立ちでアンジェリークを迎えた。
「アンジェリーク、聞きましたわよ!
あなたまたオリヴィエ様から逃げ出したんですって?」
そこでロザリアはアンジェリークの様子に気がついた。
少し頬を染め、微笑むアンジェリークはとてもきれいだ。
「? ……あのね、いくら苦手だからといってそういう態度を取っていると……
なにかあったんですの? なんだかいつもと……」
コクリと頷いたアンジェリークの髪は、いつもより濃く金色に輝いている。
「うん。聞いて、ロザリア」
緑の瞳がきらきらと輝き、ロザリアは一瞬それに目を奪われた。
「わたし、オリヴィエ様が好きなの」
「……ええっ?!」
ロザリアは言葉に詰まった。
ロザリアも、今日のお茶会の件をロザリアに告げ口した守護聖たち同様、
アンジェリークはオリヴィエのことを”嫌い”なのだと思っていたのだ。
「ずっと、それが分からなくて苦しかったけど、やっと自分の気持ちが分かって」
アンジェリークはうっとりと目を閉じ、胸の前で両手を組んだ。
「なんでも出来そうな、素敵な気持ち」
ぱっと目を開け、アンジェリークはロザリアの手をぎゅっと握った。
「がんばろうね、ロザリア」
あっけに取られてロザリアは頷くしかできなかった。
確かにアンジェリークの言葉は嘘ではないらしい。
しかも、驚いたことにどうやら片思いではないようなのだ。
何故ならこんなに自信に溢れたアンジェリークを見るのは初めてだからだ。
これは、あのかたとかあのかたは、
がっくりなさるでしょうね? と思いながら、
あまりの急展開にロザリアは目を回しそうだった。
その晩、アンジェリークはベッドに入ってもなかなか眠れなかった。
「夢じゃなかったって、証拠がいるね」
そう言ってオリヴィエが残していった彼のイヤリングを、手の内に確かめる。
オリヴィエのくれた言葉を、キスを、思い返してアンジェリークは目を閉じた。
「順番が違っちゃったけどさ、その分これからいっぱい話そっか。
大好きだ、って、たくさん言わせて。たくさん言ってよ」
耳に甦る彼の声にアンジェリークは赤くなる。
昨日までの不安はすっかり息を潜め、甘い満足にたゆたいながら丸くなった。
やっと訪れた眠りには、あの夢は現れなかった。
翌日から、アンジェリークはそれまでより張り切って育成に臨んだ。
オリヴィエとのことが女王試験の妨げになるようではいけないと、
誰より知っていたからだ。
集中して育成の予定を立て、効率よくこなすように努める。
オリヴィエの執務室へ向かう暇もなかったが、
アンジェリークは焦らなかった。
「次の日の曜日、私の私邸へおいで」
そうオリヴィエから誘われていたせいもある。
ロザリアは、そんなアンジェリークを見て興味を抑えきれない様子で尋ねた。
「オリヴィエ様とは、お会いしてるの?」
アンジェリークはかぶりを振った。
「ううん、でも大丈夫」
一体何が大丈夫なのか分かりませんわ。
だって、
あの衝撃告白以前はアンジェリークはオリヴィエ様から逃げ回って(まさに!)いたんですのよ。
いっしょにいるところを見てみるまでは、とても納得いきませんわ。
そんな身勝手な理由から、ロザリアはもう帰ると言うアンジェリークを引きずって、
オリヴィエの執務室へ向かった。
「はぁい、ロザリアにアンジェリーク」
二人はにこやかにオリヴィエに迎えられた。
アンジェリークは、ぱあっと顔を輝かせ眩しそうにオリヴィエを見つめた。
「あんたたちに似合いそうな色、選んでたんだよ。もう今日は時間いいの?」
オリヴィエは、マニキュアの瓶をいくつもテーブルに並べる。
「ロザリアは藤色がかったピンク、アンジェリークはオレンジピンクのパール。どう?」
「まあ、綺麗ですわね。ねえ、アンジェリーク」
「うん、とってもステキ」
ロザリアは二人の様子をさり気なくうかがっている。
アンジェリークは明らかにオリヴィエへの好意を溢れさせているが、
オリヴィエのほうは特にいつもと変わりがなく思える。
「ネイルケアはね、甘皮のお手入れにオレンジのスティックを使ってみて」
ネイルに関する説明にも、取った手はロザリアのほうだった。
「こうして、コットンを巻いて、そう、それからね」
ひとしきりネイルケアについての講義を拝聴し、
選んだマニキュアを持たされて二人はオリヴィエの執務室を後にした。
「今度いっしょに塗ってもらおうね、ロザリア」
無邪気に微笑むアンジェリークを見て、ロザリアは拍子抜けした。
彼らが両思いじゃないかと思ったのはわたくしの勘違い? かもしれない。
要するに、アンジェリークの片思いなのだろう。
今のところオリヴィエは拒絶もしているようではない。
「そうですわね。じゃ、わたくしはルヴァ様のところへ伺うけど、あなたも行く?」
「ううん。先に帰ってるね。後でね」
聖殿の出口に足を向けたアンジェリークの腕を、後ろから誰かの手が引いた。
「オリヴィエ様」
「育成、がんばってるみたいだね」
廊下から再び執務室の中へ入りドアを閉めると、
オリヴィエはアンジェリークを見下ろして軽く睨んだ。
「ロザリアに、何言ったの」
「え。あの…オリヴィエ様を好き、って。それだけ……」
アンジェリークは小さくなった。オリヴィエ様、怒ってる?!
「怒ってないよ」
この間までのアンジェリークの態度を思い返せば、
それだけの説明ではロザリアにはあまりに不可解だったのに違いない。
先程のロザリアの顔を思い出してオリヴィエは可笑しくなり、
ドアにもたれてアハっと笑った。
アンジェリークはほっとしてオリヴィエの肩から掛かる布の端を掴み、
背伸びして瞳を閉じた。だがオリヴィエは、
アンジェリークの唇に人差し指をちょんと乗せた。
「ここではだめ」
キスをするのは簡単だ。
だが一度唇を合わせたら、そのままこの場で彼女を奪ってしまいそうだった。
目を開いたアンジェリークは少し不満そうに唇を尖らせたが、微笑んだ。
「はい」
「日の曜日にね」
ドアを開けてアンジェリークを通す際、オリヴィエはアンジェリークの耳元へ囁いた。
「私の館なら、大きな声上げても構わないからさ」
真っ赤になったアンジェリークに、オリヴィエはばちんとウィンクを寄越した。
そして日の曜日、鳥の声でアンジェリークは目が覚めると、すぐに特別寮を飛び出した。
時計を確かめることもせずに。
チャイムを何度も鳴らし、出てきた屋敷の使用人に待つよう言われた後、
私邸の玄関にやっと現れた夢の守護聖は、
不機嫌にふうとため息をついて髪をかき上げた。
「……。おはようございます」
ちょっと怯んでアンジェリークが挨拶をすると、
オリヴィエは屈んでアンジェリークの頬を両手でぴたんと挟んだ。
「あ・の・ね、今何時か分かってる?」
「えーと……?」9時くらい?
屋敷内の時計に目をやり、アンジェリークは青ざめた。時計は6時を指している。
道理でここまで来る間、道ですれ違う人がいなかった筈だ。
「す、すみません、オリヴィエ様!」
見上げたオリヴィエの様子が、いつもと違うことに気がついた。
オリヴィエ様、メイクしていらっしゃらない……。
アンジェリークの視線に気がついて、オリヴィエは軽く伸びをした。
「ん──! そりゃそうだよ、起きたばかりだもん」
素顔のオリヴィエ様は、いつもより少し男の人らしく見える。
そしていつもの何倍も綺麗。
いつもは赤いトップとサイドの髪も後ろと同じ金色で、
前髪が額にかかり少年っぽくも見える。
アンジェリークはドキドキしてオリヴィエを見つめた。
オリヴィエはアンジェリークに手を伸ばし、顎を自分のほうへ持ち上げた。
「そんなに私に会いたかったんだ」
間近で艶やかに微笑まれ、アンジェリークの顔はみるみるうちに赤くなる。
「入ってて。シャワー浴びてくるからさ」
天井の高い夢の守護聖の私邸は、光を取り入れた思いのほか明るい造りだった。
観葉植物が各部屋に置かれ、リラックスできる。
家具はさすがにどれも凝ったものらしく、存在感があった。
シャワーから出てきたオリヴィエは、素肌に軽いガウンを羽織っていた。
テラスに食事を用意されアンジェリークは席に着いたが、
オリヴィエの格好を意識しないよう努めていた。
「ほらほら、それも平らげないとダメだよ」
オリヴィエはアンジェリークにパンや果物を取り、
彼女が一生懸命それを片付けるのを微笑んで見守った。
アンジェリークは、オリヴィエがスリムな体の割に沢山食べるのを見て目を丸くした。
「オリヴィエ様、いっぱい食べるんですね」
「ん。沢山食べなくちゃ、朝は。健康のために朝食は不可欠だよね」
言われて、まさに朝食を食べずに訪れたアンジェリークは下を向いて赤くなった。
「それにしても」
あはっとオリヴィエは笑って言った。
「スッピンで人に会うのも滅多にない事だよ。6時だもんね」
ますますアンジェリークは小さくなった。
「オリヴィエ様の意地悪」
そうだね、ホント。アンタにだけはイジワルしたくなっちゃうんだよね。
食事を終え、お茶を飲んで寛ぎながらオリヴィエが言った。
「じゃ、今日はどこか行く? アンタに似合う服、見つけてあげようか。それとも」
オリヴィエはちらっと横目でアンジェリークを見て、付け足した。
「私の寝室の天井が見たい?」
その言葉の意味するところに気がついて、アンジェリークは真っ赤になった。
オリヴィエはくすくす笑い、アンジェリークがまた ”イジワル”と言うものと思った。
ところが
「……はい」
赤くなりながらも頷いて彼を見返すアンジェリークの緑の瞳に、
ゆらゆらと欲望の炎が揺らいでいるのを見て、オリヴィエのそれまでの余裕は吹き飛んだ。
「きゃ」
アンジェリークを抱き上げると、オリヴィエの足は寝室へと急いだ。
「ん、もう。アンタってコは」
こんなにも寝室までの道が遠く感じられたことはなかった。
オリヴィエはドアを開ける手ももどかしく寝室へ入り、
アンジェリークをベッドに降ろすと自分のガウンを落とした。
そして、アンジェリークのスカートに手を入れ下着だけをさっと取り去ると、
アンジェリークの了解も得ずに一気に彼女を貫いた。
「きゃ……あぁっ……!」
思った通り、アンジェリークは既に蜜を蓄えており、
軽々とオリヴィエを受け入れた。
「まったく、カワイイんだから」
はぁ。オリヴィエは熱い息を吐いて囁いた。
「……すごい。ね、感じてる?」
「っやぁ……そん…なこと、言えな……あぁ、ん」
アンジェリークの頬は上気し、切なげに彼を見返す表情もオリヴィエを煽る。
「だってさ、こんなに……っふ……」
「あんっ……あっ、ぁは…あ……」
オリヴィエが揺さぶる動きに、アンジェリークの言葉も揺れる。
「んっ……はぁん…オリ…ヴィエさま……スカート…が皺……あぁっん」
「スカートでもなんでも、私が…っく……全部買ったげる。
っていうか、今日はスカートだって服だって……必要ないじゃないか」
「は……い。……っん」
際どい彼の発言に従順な返事をしたアンジェリークが可愛くて、
オリヴィエはすぐに動きを早くした。
「あん……っあ…オリヴィエさま、だめ……もぅ、イッちゃ……」
「いいよ、私も……っく……は……!」
荒い息を吐きながらオリヴィエはやさしくアンジェリークの髪を梳いた。
「ゴ……メン。乱暴にしちゃったね。まだアンタ、初心者なのに。」
「んん、だい……じょうぶです」
オリヴィエは、繋がったまま体を起こしてアンジェリークを上にのせ、
ブラウスと下着を脱がせにかかった。
だんだんと現われていくアンジェリークの素肌を、オリヴィエの唇がなぞって行く。
「今度は初めからゆっくりね」
頬を上気させ、オリヴィエのなすがままになっていたアンジェリークだったが、
スカートを脱がせようと結合を解こうとした途端、身をよじった。
「嫌」
両腕をオリヴィエの首に回し、アンジェリークはかぶりを振った。
「ちょっとでも嫌。離れたくないです」
「だ……」
アンジェリークは、
自分の中でみるみるうちにオリヴィエ自身が力を取り戻したのに気付いた。
「だからなんだってアンタはこんなに可愛いのさもう」
オリヴィエは衝動を抑えられぬままアンジェリークの唇を貪った。
深く深く口付けて舌を吸われ、アンジェリークの頭を火花が散った。
オリヴィエが、回した腕の輪にぎゅっと力を入れて抱きしめると、
二人に挟まれてアンジェリークのスカートはくしゃくしゃになった。
「オリヴィエさま、苦し……」
私も、苦しいよ、アンジェリーク。
こんなに誰かを求めたことは、もっと若い時でも、なかった。
アンジェリークはふと目を覚ました。
幾度も抱き合いいつしか疲れ、二人で眠っていたらしい。
オリヴィエの両腕が、守るようにアンジェリークに回されている。
アンジェリークは顔を上げてオリヴィエを見た。
なんて綺麗なんだろう。
メイクをしなくてもきめ細やかな白い肌に整った鼻梁、
長い睫毛が頬に影を落とし、ブルーの瞳は今は閉じられている。
軽く結ばれた唇は、彩る口紅がない今は男性的だ。
まるで神様が作った芸術品のよう。
アンジェリークは耳をオリヴィエの胸に当て、
トクントクンと規則正しい音を確かめほっとした。
「……何」
目を閉じたまま、オリヴィエの手がアンジェリークを引き寄せた。
「オリヴィエ様があんまり綺麗で、心配になったんです。本当に生きてるのか」
アハハと笑い、オリヴィエは目を開けてアンジェリークを見返した。
途端、アンジェリークは胸の奥がきゅうっと締め付けられた。
「それ、すっごい褒め言葉と思っておく」
薄いグレーブルーの瞳はいたずらっぽく輝き、
豊かな表情から華やかなオーラが放出され、
完璧な顔の造作を目元のほくろだけが裏切っている。
そんなオリヴィエを見つめるうち、アンジェリークの胸へ浮かぶクリアーになった想い。
ああ、わたしはオリヴィエ様が好き。
「何泣きそうな顔してんの」
顎の線を指でなぞられながらオリヴィエに言われ、
アンジェリークは自分の瞳が雫を湛えているのに気付いた。
視線をオリヴィエの指に落とし、アンジェリークは呟いた。
「オリヴィエ様がやさしくて、すごく怖いです」
失うことが。
「そう…分かるよ」
アンジェリークはびっくりしてオリヴィエを見返した。オリヴィエ様も?
この間までのように夢でだけ抱き合う、そんな未来が先にあるのかもしれない。
一度手に入れてしまったものを失ったら、知る前よりも辛いかもしれない。
オリヴィエは身を起こし、アンジェリークの腕を引いた。
「でもさ、今アンタと私はここにいるじゃない?
だからまだ来ない未来を恐れて、今、そんな顔しないでよ」
オリヴィエが微笑むのを見上げ、つられてアンジェリークもにっこり笑った。
その拍子にアンジェリークの頬に一粒涙が零れた。
「はい」
おかしくなるくらい、あなたが欲しかった。
持っていていけない気持ちではないと、教えてくれた。
わたしはこれからも、ずっとあなたが欲しい。
「惹かれる理由なし」という掟破りですよね、すみません。 結構前から長いこと、たらたら書いてました。 がんばって加筆してきましたが(そんなトコばっかりね・笑) 少しでもドクドク来ていただけましたよう祈ってます。修行あるのみ。 三話めはいろいろと蛇足ですが、こっちのほう書くの楽しいです。 最後は無理矢理まとめてます(笑)。 他にも書きたいイチャイチャえっちがいっぱいあるんですけど、 テーマからずれるので我慢しました。筆も追いつかないしな。 2008.1.25 |
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