ドキドキ、ずっとね


 パーティーのアンジェリークは、 守護聖のみならずそこにいた男たち皆の視線を集めていた。 普段ロザリア贔屓の守護聖たちもが、 アンジェリークの可憐さにぽかんと口を開けているのを見て、 オリヴィエはほくそえんだ。
 だがオリヴィエはアンジェリークを片時も傍から離さなかったし、 彼女の方もまたオリヴィエからずっと視線を外さなかったので、 皆一様にアンジェリークがひときわ輝く理由を知ったのだった。

 帰りの馬車の中で、オリヴィエはそっとアンジェリークを抱き締めた。
「今日のアンタは本当に、綺麗だよ」
 潤んだ瞳がオリヴィエを見返して瞬くのを見て、 彼はアンジェリークの顎を捉えて顔を近づける。 だが彼女は大きな目をぱちくりとさせて閉じようとしないので、オリヴィエは苦笑した。
「目、閉じて」
 やっと辿り着いた初めての口付け。 待ち切れなかったオリヴィエはすぐそれを深くした。だがアンジェリークは、 オリヴィエの舌が進入してきて目を白黒させて喘いだ。
「……っぷ、はぁ」
 アンジェリークの手がオリヴィエを押しやって体が離れたので、 彼は腕に力を入れてアンジェリークを引き寄せた。
「オ、オリヴィエ様。へんなことしないでください」
 がくっ。何がヘンナコト、なのさ。
「いいから。ゆっくり感じて。ね?」
 再び有無を言わさず唇を重ねると、アンジェリークの抵抗が緩くなり力が抜けていく。 オリヴィエは強弱をつけて吸いながら、舌をゆっくりとアンジェリークの舌へと絡めた。
 アンジェリークは長く続く、初めての大人のキスに思考が止まりそうになっていた。
 ……知らなかった。キスってすごくエッチで……気持ちいいんだぁ。
 馬車が止まった事にも気が付かず、 アンジェリークはオリヴィエのキスへ応え始めていた。

 オリヴィエの唇が離れるとアンジェリークは不満げに目を開けたが、 オリヴィエは彼女を抱き上げて馬車を降りた。
 あ、着いちゃったんだ。……残念。
 内心思ったその感情に気付いて、アンジェリークは顔を赤くした。
 オリヴィエの腕から降ろされ、今日はありがとうございました、 そう言おうとしてアンジェリークは目をしばたいた。
 ここ、寮じゃない。……オリヴィエ様の、私邸?
 ヨロリとなりそうになり、アンジェリークはオリヴィエに支えられた。 そしてオリヴィエは彼女の背を押して、私邸の玄関をくぐる。
「いえ、あの、オリヴィエ様?」
 笑いを含んだ瞳で、オリヴィエがアンジェリークを見下ろした。
「それ、脱ぐのも1人じゃできないだろ? 私が手伝ったらさ、 アンタの部屋じゃ隣にロザリアいるし」
 はい? アンジェリークは首を傾げた。オリヴィエ様が手伝うのと、ロザリアと、 どんな関係が?
 本当に分かっていないらしい顔を見て、オリヴィエが吹き出した。
「それ着せ付けてるとき、私が"何を"我慢してたのか、分かってなかったんだ?」

 背を押されて廊下を進み、辿り着いた先が寝室と気付くと、 そこへ至ってやっとアンジェリークは合点がいったようだった。
「な! オリヴィエ様、まさかそんな」
「何でよ。どうしてまさかなのさ」
 アンジェリークは真っ赤になって小さくなった。さっきから、 もしかして、とはアンジェリークとて思っていた。けれど昨日の今日、 ではなくて今日の今日で、そんなに性急にそういうことを望まれるなど、 アンジェリークの常識ではありえないことだったから。
 それにわたし、今日はじめてオリヴィエ様が好きなんだって分かったばかり。
「こ、心の準備が出来てません!」
寝室のドアをくぐろうとしないアンジェリークに痺れを切らせて、 オリヴィエはアンジェリークを横抱きに抱き上げた。
「じゃあ、今、準備して。はい」
 アンジェリークはベッドの縁へ座らされ、 その正面に床へ膝を付いてオリヴィエが陣取った。 傍からじっとオリヴィエがアンジェリークを見つめる。
「前からアンタが好きだった。ずっと気がついてもらえなかったけどね」
 アンジェリークの鼓動は加速度的に速くなる。
「柔らかい髪に指を入れたかった。緑の瞳をキスで閉じさせたかった。 アンタの肌、全てへ触れたかった。ずっとそう思ってた」
 熱い視線が、アンジェリークを縛り、身動きが出来ない。
「大好き、だよ」
 そしてオリヴィエは素早くアンジェリークの唇を奪った。

「……どう? 準備できた?」
 すぐ唇を離しにっこり笑うオリヴィエへ、赤くなった頬でアンジェリークは返す。
「そ、そんなすぐに準備出来ません!」
 ふぅー。オリヴィエは視線を下へ落とし息をついた。
「じゃあ、いつならいいわけ?今夜だって明日だって明後日だって、 私はいつもこんなふうに、アンタが欲しいのに」
 アンジェリークはさらに赤くなり、困って首を傾げた。
「えーと……来年くらい?」
 オリヴィエの目が丸く見開かれ、息を止めている様子が分かった。 そして彼は立ち上がるとベッドへと突っ伏すようにバッタリと倒れた。 そして長い足を投げ出したまま何も言わずに動かない。
「あの、大丈夫ですか? オリヴィエ様?」
 アンジェリークがベッドへと乗り、 肩が小刻みに震えているオリヴィエに気が付きおずおずと声を掛けると、 彼は仰向けに転がって笑い出した。
「ら……来年? 来年ってアンタ……! 私を殺す気?」
 あっはっはははは!ひー!
 息も出来ずに苦しそうに笑うオリヴィエを見て、 アンジェリークは心配したのが損したように感じて頬を膨らませてしまう。 ひとしきり笑った後やっと笑いを治め、 仰向けになったままオリヴィエはアンジェリークを見上げた。
「……そんなに待てない。いますぐ。欲しい」
 率直な言葉に、アンジェリークは戸惑い視線を外した。 すると伸びて来た手がアンジェリークを捉え、 彼女の頭をオリヴィエの胸へと押し当てた。
「聞こえる? 私だってこんなに、ドキドキしてるんだよ?」
 言うとおり、鼓動が速い。
 オリヴィエ様が? わたしにドキドキしてくれてるの? 本当に?
 耳から伝わる鼓動を感じながら、アンジェリークは胸が苦しくなった。
 そのまま静かになってしまったアンジェリークに、 オリヴィエはふっと笑って二人の体の上下を入れ替えた。 真上からアンジェリークの瞳を覗き込むと、緑の瞳がゆらゆらと見返す。 馬車でしたキスの続きをすると、アンジェリークは拙いながらもそれへ応えてくる。
「いいの?」
 もう言葉はいらないのだが、わざと口に出して聞いてやると、 アンジェリークはオリヴィエを見上げて恥ずかしそうに頷いた。
 ……可愛い。
オリヴィエはその表情に自分の欲求が更に煽られるのを感じた。


「あふ……ん……あっ!」
 オリヴィエの手がアンジェリークの肌を滑ると、口から声が洩れてしまう。 恥ずかしい。
 そこでアンジェリークは頭の端で、 "アンタの部屋じゃ隣にロザリアいるし" の意味が分かった、とぼんやり思った。
 複雑なドレスもその下も、 あっという間に解かれてアンジェリークはオリヴィエと肌を合わせた。
「綺麗だよ」
 見つめるオリヴィエの視線に、 恥ずかしくてアンジェリークは顔を背けた。すぐに唇を捕らえられ、 息もつかせぬ口付けが続く。胸の膨らみをオリヴィエの手が覆い、 柔らかさを楽しむように揉みしだいた。
「やっ……」
 その声にオリヴィエが手を止める。
「嫌?」
 嫌じゃない。もっとしてほしい。でもそれは言えず、アンジェリークはただ首を振った。 ふふ、とオリヴィエは笑い、その先を口へ含んだ。
「あぁ……っん」
 オリヴィエはその声をもっと聞きたくて、唇と舌で愛撫を加えてゆく。 手がアンジェリークの足へと伸び、閉じようとする膝を割った。 隠された場所へとその手が進み、更に奥へと伸びる。ゆっくりとした愛撫が、 アンジェリークの体を開かせていった。
 クチュ。
「聞こえる?」
 アンジェリークは恥ずかしく、顔を手で覆って首を振った。 それでも容赦なくオリヴィエは愛撫の手を緩めず、 あっという間に彼女を高みへと追い込んだ。
「や……いやっ、ああっ!」

 それまで知らなかった快感がアンジェリークの体を走り抜け、 彼女は息を詰めてそれに耐えた。そしてその後ぐったりと弛緩した体へ、 オリヴィエは膝を割ってそこへ自身の腰を入れて閉じさせまいとした。 まだ荒い息を吐くアンジェリークの片足を抱え、オリヴィエは言った。
「力、抜いて、ね」
 圧倒的な質量が進入して来たのを、 まだ体から力が抜けていたためアンジェリークはあっさりと許した。 だが、すぐに痛みに気付き、眉をしかめると体を強張らせた。
「や……っあ」
「……くっ……」
 オリヴィエはアンジェリークの額へ手を伸ばし、 汗で付いた髪を掻き上げてキスを落とした。瞼に、頬に、 幾度もキスを繰り返して囁いた。
「アンジェリーク? ほら、私を感じる?」
 涙が滲む瞳を開けて、くすん、とアンジェリークがオリヴィエを見返した。
「感じます。痛いもん」
 笑ってオリヴィエはアンジェリークへ口付けた。柔らかく焦らすようにゆっくりと。 アンジェリークの手がオリヴィエの背に回されてさらにキスが深まると、 やっとオリヴィエは動き出した。
「う……あ……! や、痛……むぐ」
 痛みを訴える唇は、キスで塞ぐに限る。アンジェリークが何も考えられなくなるように、 オリヴィエは彼女に深く口付けて吸った。
 揺さぶられて深いキスを与えられ、アンジェリークは痛みと混乱の中へ落ちていく。 とっても痛いけれど、でも嫌じゃない。 それに気がついてアンジェリークはオリヴィエの背中に回した指へ力を込めた。
「オリヴィエ様……好き」
 その声に押され、オリヴィエはアンジェリークへ深く潜った。


「こーゆーの、手が早い、って言うんじゃないですか?」
 シーツを引っ張ってそれにくるまりながら、 アンジェリークがオリヴィエを恨めしそうな目で見て言った。
 きゃは、と可笑しそうに笑い、オリヴィエがアンジェリークを覗き込む。
「言うかもね。手が早いヤツ、嫌い?」
「き……」
 嫌いだと、言える訳がない。でも、好きだと言うのもかなり癪なので、 アンジェリークは頭までシーツを被った。オリヴィエが笑う声がまた聞こえた。
「約束だったよね。お風呂いっしょに、入ろ?」
 がば、とアンジェリークは頭だけシーツから出した。
「約束なんて、してません!」
 おや? と眉を上げてオリヴィエがアンジェリークを横目で見た。
「いっしょに薔薇のボディソープの香りになるんだろう?」
 もちろんその言葉、アンジェリークも覚えていた。しかも、 彼の言葉で赤くなってしまった、その最初のセリフだった。
「なのにアンタそう言っても、全く動揺しなかったじゃないか」
 笑いながらもオリヴィエは、"面白くない事を思い出した" という顔をした。
 あれ?アンジェリークは首を傾げた。あの時、オリヴィエ様はわたしが赤くなったの、 気付かなかったんだ。
 最初のドキドキは、わたしだけの秘密。そう思ってアンジェリークは小さく笑った。
「余裕じゃない」
 笑みに気付いてオリヴィエはくるまったシーツごとアンジェリークを抱き上げた。
「きゃ!」
 ちゅ、と唇へ音を立ててアンジェリークへキスして、オリヴィエは言う。
「ずっと、ドキドキしてよ? 私もずっと、アンタにドキドキだから、さ。」


end


…やってしまいました。とうとう、R18。 いやでもH部分以外のほうが、筆が生き生きしてます自分で分かってます。 だってね、オリヴィエ様っぽい、という描写が書けないですよその部分は。未熟。
以外のほうは、すっごく楽しかったです。 それにしても本当に、手、早すぎ!(笑)
そうそう、ここで希望的設定をひとつ。エッチはどうだか分かりませんが、 オリヴィエ様は絶対、キスがめっさ上手です。いいないいな、くらくらするKISS。
2007.10.17



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