獄寺から風に伝わって甘い匂いがした。


ひどく人工的だけど、決して嫌じゃない甘ったるさ。
勝手なイメージだが彼は匂いに敏感そうだから、
香水などはつけないものだと思っていた。

「獄寺、なんか甘い匂いすんのな」

窓に寄りかかるようにして座っている獄寺に言った。
俺の言葉で窓の外のどこかを見つめていた視線が、こちらに戻ってきた。

色素の薄い髪の毛が背から受けた風で彼の頬にぱさぱさと触れていた。

ああ、髪の毛になって頬に触れたい。
嫌がられることなく、自然な風景として受け入れられて。

獄寺は一回目を眇めた。疑うように。

「ああ、そういえばするね。香水?」

それまで黙って問題を解いていたツナが顔を上げて、
向かい合っている獄寺に言った。

「え、本当にしますか?香水なんて付けてないですけど…」

ツナに言われた途端に目を丸くして自分を嗅ぎ出した。

慌てて頭を落としたせいで、
眼鏡が普段の位置よりも大分落ちた。

「別に気にしないでいいくらいだから平気じゃない?」

そう言ってツナは笑うと、
シャーペンを握りなおして、視線を机上のプリントに戻した。

俺は獄寺が眼鏡を治しているところから視線をはずさない。

見られていることに気づいた獄寺は
思いっきり嫌そうな顔をして、

「おまえもとっとと終わらせろよ」

と言った。
言った途端にまた風が吹いて、甘い匂いがした。

どこかで、嗅いだことのある匂い。





「だーかーらー男は見ねえって言ってんだろ」

その日の部活中に、部員が肩をはずしてしまったので
誰かがやる気のない保険医を呼んできた。

見ない見ないと言っておきながら
なんだかんだで荒療治ながらも治してくれた。
治された部員が痛みの残る声が「あっした…」と呟く。

「もー手間かけさせんなよ」

そう言って片手をあげて野球場から去っていった。
白衣のポケットに片手を入れて、ごそごそをして、きっと煙草でも探しているんだろう。

「あっしたー」

やる気ないことを全面に押し出しながら
挨拶をすると、これまたやる気なさそうに「いいってことよ」と返ってくる。

すれ違うときに、彼の匂いがした。


その匂いに驚いて、思わず振り向いた。


今日、嗅いだ匂い。






今日やっていて途中だったプリントを教室に忘れたことに気づいて、
部活が終わったあとに取りに行った。

プリントに並ぶ彼の字に、
呆れたように教える獄寺の姿が脳内に蘇ってきて思わず頬がゆるんだ。
同時にあの似合わない匂い、白衣の白さがちらつく。


「、」


獄寺が今日座っていた位置に座る。
どこぞの占いを信じる女子のようだと自嘲気味に微笑んで、
ふと窓の外に目をやると、どこかの明かりがぽつんとついていた。

白いそこ。

明かりとその白さのせいで、
残っている人がほとんどいないこの暗い校舎でそこだけ浮いている。


「ご、くでら?と…」


その場所に浮かぶ少年と、その横にいる大きな影。

がらりと窓を開けて、
大して近づけもしないのにそれを見ようと身体を傾けた。
暗くなる空は分厚い雲がかかっていて、今にも雨が降り出しそうだ。


大きな影に包まれるそれ。
離れたと思ったら、それは大きな影の胸倉を掴んでキスをした。ように見えた。

そして全ては繋がった。

匂いも、彼が勉強中に窓を開けていた訳も、
自分のこの感情にも、すべてさらりと繋がった。





呪い

プリントにぽつりと、染みができた。 雨が降り出したんだろうか。空は、どんよりと暗い。 (うあー駄作。つらつらと設定だけやっちゃった感。山本むずかすぃ)

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