壊乱~想いは雪の中に


最近、アンジェラの様子がおかしい。

はじめに様子がおかしいと気づいたのは、魔法王国アルテナへと侵入するために、この雪に閉ざされた土地へと来た時だった。
なにかにおびえるような不安な表情をしたかと思ったら、いきなり明るくなって騒いだり、かと思うとあせって先に進もうとしたり。
もしかしたら、この国への侵入計画を立てていた時から様子がおかしかったのかもしれない。
俺は鈍感だから気づくのが遅れたのかもしれない。
計画の手順を確認し、いよいよ明日にはアルテナへと旅立とうとした夜、アンジェラは雪の都エルランドの宿から姿を消してしまった。

「アンジェラさんはいったいどこに行ってしまったんでしょう・・・?」
赤々とともるロビーの暖炉の前で、リースは長いため息をついた。アンジェラがいなくなったという知らせを受けて、他の仲間も皆ロビーに集まってきていた。
デュランはイライラと何回も窓の方を振り返っては見ていて、シャルロットとケヴィンは半分眠っている状態である。そしてホークアイは。 「心配ないさ。宿屋のおやっさんに頼んで、村の人達にアンジェラを探してもらっている。すぐに見つかるさ。だから心配する事ないよ、リース」
リースの肩を抱き、優しく諭すように言う。
「でも、外は真っ暗だし、雪も降ってきましたよ?やっぱり私達も探しに行った方が・・・」
「それについても何度も話しただろう?この土地に明るくない俺達が探すよりも、夜なんだし村の人達に頼んだ方がいいって。じきに、アンジェラ発見の知らせを・・」
ホークアイがそこまで言った時、ふいに宿屋の扉がばたんと開かれた。「ほらな」ホークアイが言い、皆一斉にそちらを振り返る。が、次の瞬間皆がっかりとした表情になった。村人達の中に、彼等の仲間の姿はなかった。
「村のどこにもアンジェラさんはいませんでした。そこで、村の外まで捜索範囲を広げたところ、零下の雪原の入り口に彼女のものと思われる足跡が・・・」
村の青年団の団長、マイケルの言葉に全員が息を飲む。と、そこへデュランがつかつかとマイケルの側へ近寄り、その胸倉をつかんだ。
「それで?お前らはどうしたんだ?アンジェラを探しに行ってくれたのかよ?」
「お、おい、デュラン、乱暴な事はよせよ」
マイケルの胸倉を掴んだまま、激しく揺さぶるデュランを必死に止めようとするホークアイ。マイケルは苦しげに話す。
「夜に零下の雪原に入る事は危険です!!ただでさえ、雪も降って来ていますし・・・明日の早朝から再び捜索を・・」
その言葉を聞き、マイケルから手を離すデュラン。マイケルはごほごほと咳き込む。リースが側によって「すみませんでした」と謝りながら介抱した。
「おい、待てよ」
その間に防寒着をきこみ、宿屋の外へ出て行こうとするデュランに、ホークアイは呼びかけた。
「お前、零下の雪原にアンジェラを探しに行くつもりか?地元の人間でさえお手上げの場所だぜ?俺達の手に負えるわけ・・」
「そんなの関係ない!!アンジェラはこの寒さの中、今も助けを待ってるかもしれないんだ!!・・・止めても無駄だぞ、俺は行く」
そう言い残し、宿屋の扉を開けた。ぴゅ~と外から寒い空気が室内へと入ってくる。デュランはそこで立ち止まり、
「最近、アンジェラの様子がおかしかったんだ。俺はそれに気づいていながら何もしてやれなかった。だから、アンジェラが今困っているなら、俺は助けにいかなきゃならないんだ」
そう言い残し、ばたんとドアを閉め出て行った。あとには気まずい沈黙のみが残る。
「・・・あいつ、アンジェラの様子がおかしい事に気づいてたんだな」
ホークアイがぽつりと呟く。
「あれだけ様子がおかしければ、鈍感のデュランしゃんでも、いくらなんでも気づくでち」
シャルロットがしたり顔で続ける。
「でも・・・私達もアンジェラさんに何もしませんでしたよね。悩みを聞いてあげるくらいはできたのに・・・様子がおかしいからと気をつけてはいましたが・・・」
リースが呟いた。
「あとはデュランに任せる。それが一番いい」
ケヴィンがにこにこと続ける。無責任な言い方だが皆もそれが一番いい方法だと分かっていた。
「そうだな・・・じゃ、デュランがアンジェラを連れ帰ってくるのを待ってるとしますか」
窓の外の雪は先ほどよりもかなり強くなっていた。

かなり吹雪いてきた雪の中をデュランは村の外から零下の雪原への入り口へとやってきた。マイケルの行っていたアンジェラの足跡は、強くなった雪に埋もれてもう分からなくなっていた。
しかし、アンジェラはこの雪原の中のどこかにいる。
そう自分の直感を信じ、デュランは雪原を進んでいった。
強い吹雪に体がどんどん冷えていく。しかしデュランは歩をゆるめず、ざくざくと雪を踏みながら進んでいった。
雪原の中をモンスターを倒しながらかなり進んだ頃。見覚えのある後姿が見えた。一心不乱にざくざくと吹雪の中を進んでいる。と、その体がぐらりと揺れた。
「アンジェラ!!」
デュランは駆け出し、アンジェラの体が冷たい雪の上に倒れる前に抱きかかえた。
「アンジェラ!!大丈夫か!!?」
その呼びかけに答えるように、うっすらと目を開けるアンジェラ。
「デュラン・・?」
紫色に変わった震える唇から紡ぎ出される名前に、デュランはアンジェラをより強く抱きしめる。
「良かった・・アンジェラ・・無事で・・・」
しかし、アンジェラはデュランの体を押し返すとふらつきながらも立ち上がった。
「なんで来たの・・・?私の事なんて放っておけば良かったのに・・・」
デュランに背を向け冷たい言葉を呟く。
「お前なぁ、せっかく助けにきたのにそんな言い方は・・」
「助けてくれなんて頼んだ覚えはないでしょ!!」
デュランの言葉はアンジェラの激しい言葉に途中でかき消された。はぁはぁと肩で息をしながら、アンジェラは一気にまくしたてる。
「私は早くお母様に会いに行かなきゃならないの。そして、私の考えを聞いてもらって、馬鹿な考えを止めてもらうのよ。私、魔法を使えるようになった。だから、お母様も今度はちゃんと私を受け入れてくれるわ」
「おい、アンジェラ、お前何言って・・・」
「明日までなんて待っていられない。お母様は、もうすぐ近くにいるんだもの。だから早く・・」
「おい、落ち着け、アンジェラ。落ち着いて、俺にも分かりやすく説明してくれよ。何がなんだかさっぱりわからないんだが・・」
アンジェラの事情を知らないデュランにはアンジェラが何の事を言っているのかちんぷんかんぷんだった。
「あんたに言ったって分かんないわよ。一番愛している人間から拒絶された人間の気持ちがあんたに分かる?実の母親から殺されそうになった私の気持ちが」
そこでアンジェラは言葉を止める。目尻には涙が浮かんでいた。
「あんたみたいに暖かい家族の中でのうのうと暮らしてきて、聖都ウェンデルを訪ねた理由だって、紅蓮の魔道士を倒すなんていうくだらない理由で、いつも皆に頼られて、他人から拒絶なんてされた事のない人間に・・・」
アンジェラのこの言葉にさすがにデュランもかちんときたが、黙って耐えた。その態度がアンジェラのカンにさわったらしい。涙声を張り上げる。
「なんとか言ったらどうなのよ、デュラン!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「そう、デュランはいつもそうだよね。私が何か言っても何も答えてくれない。私がいくら好きだって言っても無反応だし」
デュランそれは違う、と心の中で呟くが、恥ずかしいので口には出さない。
「私は誰にも必要とされていない。お母様も私が必要ないから私を殺すと言った。でも、今なら、魔法が使えるようになった今なら・・・」
アンジェラそう言って声を上げて泣き出してた。不安定になっていた気持ちが堰を切って溢れ出してきたらしい。デュランはそれを見て意地を張っている場合ではないなと思った。
(ここはひとつ、ホークアイに教わった方法でも試してみるか)
泣き叫んだり、怒ったりしている女の子を黙らせるにはこの方法が一番だぜ、といつかホークアイが教えてくれた。その方法を試すのはいささか恥ずかしいが、今はそんな事を言っている場合ではない。
アンジェラの肩に手をかける。アンジェラは嫌がって身をよじろうとするが、強引に振り向かせた。
「俺はアンジェラを好きだし、必要としているよ」
そう言いながらアンジェラを抱きよせ、強く抱きしめた。これだけでもかなりの赤面ものなのだが、ホークアイの言葉によると「このあと優しくキスでもすればもう完璧だぜ!!」という事だった。
ますます赤くなりながらアンジェラに顔を近づけていく。
ぱぁん。
次の瞬間。デュランの左頬が大きく鳴った。
「口先ばっかで都合のいい事ばかり言わないでよ!!私がいくら好きだって言っても、それを態度で示しても、デュランは何も言ってくれなかった!!私ばっかりデュランの事が大好きで・・・本当は迷惑だったんでしょ?だったらはっきりそう言えばいいじゃない!!傷つけるからとか、これからの旅に支障が出るからって、何も言わないなんて卑怯よ。私が嫌いなら・・・はっきりそう言えばいいじゃない・・・・・」
目に涙をため、真っ赤になりながらも、怒った目でデュランを見つめ、アンジェラはまくしたてた。
「抱きしめて、キスするくらいなら痴漢でもできるのよ。今までそんな事言わなかったのに、今更そんな事言うなんて、この場かぎりの嘘だって言ってるようなもんじゃない。そんなもの、信用できないわよ!!」
叫ぶなり炎の魔法をデュランに飛ばし、アンジェラは泣きながら駆け出した。
「おい、待てよ!!」
予想と違う行動に驚くが、アンジェラの魔法を軽く避け、デュランはアンジェラの後を追う。雪のためか、アンジェラはうまく走れないでいて、追いつくのは簡単だった。言葉で説得するのはもう無理かもしれない。仕方ないな、と口の中で呟き、追いついたアンジェラに当身を食らわせた。声も立てずに崩れ落ちるアンジェラ。その体を抱き上げ、デュランは村へと戻った。

翌日。夜中に戻ってきたデュランとアンジェラの体調を気遣って、一行はアルテナへの出発を遅らせる事にした。まだアンジェラの気持ちが落ち着いていないかもしれないという配慮もあった。
アンジェラをおぶって連れ帰ってきたデュランから、昨日のうちにホークアイ達はアンジェラの様子を聞いた。母親のいるこの地へ来たからアンジェラはナーバスになっていたのだとデュランは説明した。自分とアンジェラの事については言わなかった。
そして今。男性陣、女性陣にそれぞれ分かれて、おしゃべりに花を咲かせていた。

「ああ、私、デュランになんて事言っちゃったんだろう」
アンジェラはそう言ってうつむいた。リースとシャルロットがその言葉にお茶を飲む手を止め、アンジェラの方を見た。
一夜明けてアンジェラはかなり落ち着いてきていた。言いたい事を言ったせいかもしれない。昨日に比べて気持ちはかなり安定してきていた。と、同時に反省の念が湧いてくる。昨日は勢いに任せてかなりひどい事をデュランに言ってしまった。これからいったいデュランにどうやって接したらいいのだろう。
「あの・・・なにか悩みがあるなら、話してくださいませんか?力になれる事もあるかもしれませんし・・・」
リースの言葉にアンジェラは昨晩の事について話す事を決意した。

「あんたしゃんは馬鹿でちね」
アンジェラの話を聞き終わって、開口一番シャルロットがそう言った。
「ぐっ・・・分かってるけど、そんなにはっきり言う事ないじゃない!」
反論するアンジェラ。
「だいたい、あんたしゃんはいつも一言多いんでち。ただでさえ、言葉も結構キツイんでちから気をつけなきゃ駄目でちよ」
「そういうあんたも結構言葉キツイけど?」
「シャルはまだ子供だからいいんでち」
「いつも子供扱いすると怒るくせに、こういう時だけ自分は子供だって言うわけね」
「あんたしゃんはもう年増で子供じゃないんでちから、もっと気をつけた方がいいでちよ」
「・・・なんですって?」
「ま、まーまー落ち着いて下さい、二人とも」
このまま不毛な言い争いへと発展しそうだったので、リースがやんわりと押しとどめた。そして同時にほっともする。アンジェラはもうすっかりいつも通りのアンジェラへとなっていた。シャルロットももしかしたら、それを確かめる為にあんな事を言ったのかもしれない。
「で、話を戻しますけど、アンジェラさんはデュランさんへの接し方が分からない、という事ですね」
リースが新しく皆にお茶を注ぎながら言う。
「そんなの簡単でち。あんたしゃんがデュランに謝ればいいんでち」
「そうですね。悪い事をしたと思っているんなら、謝るのが一番ですね」
一秒で答えが出てしまった。
「わ、分かってるけど、そんな、謝るのなんて・・・」
ぷう、と頬を膨らませるアンジェラ。王女育ちで気ままに我がままに暮らしてきたアンジェラにとって、謝る事は大の苦手だった。
「でも謝らないと、ずっとぎくしゃくしたままですよ?」
「そうでち。意地を張ってる場合じゃないでち。デュランしゃんと仲直りしたいならとっとと謝ってしまうべきでち!」
二人で追い討ちをかけてくる。
「でも、今まではっきりしなかったあいつが悪いんだもん。私だって、リースとホークアイみたいにラブラブになりたかったんだもん」
「あんたしゃんははっきりしすぎでちからねぇ」
すねたようにつぶやくアンジェラ。すぐさまシャルロットの突っ込みが入る。
「わ、私は別にホークアイさんとラブラブじゃないですよ?ただ、ホークアイさんが色々私にちょっかいかけてきて、それだけですよ。確かに、私も別にそれは嫌じゃないですけど、でも、えっと」
リースは横でわたわたと言い訳していた。
「よし。ここで悩んでてもしょうがないものね。いっちょ、謝ってみるかな。・・・う~でも嫌だなぁ。私から折れるなんて・・」
アンジェラは立ち上がり宣言した。隣でシャルロットは「まぁ頑張ってみる事でち」と激励の言葉を送った。横ではまだリースがわたわたと言い訳を壁に向かって続けていた。
「私は、確かに、ホークアイさんの事は嫌いじゃないです。でも、私はホークアイさんに対して、好きだとは言っていないし、だから、恋人同士じゃないから、ラブラブじゃないし。それにホークアイさんにはジェシカさんって人がいるし・・・」

その隣の部屋では男性陣が話しをしていた。
「お前ら、なにかあっただろ」
ホークアイの言葉にデュランはどきっとした。
「お前らって誰の事だよ?」
「お前とアンジェラのことだよ」
答えはあっさりと返ってくる。
「朝飯の時だって二人とも視線を合わせなかっただろ?目が合いそうになったらぱっとそらしたりしてさ。これは何かあったな、と俺は思ったね。ってゆーか、あの場にいた全員がそう思ったと思うけど」
「へ、へ~そ~か~」
不自然にあわてた様子でばればれだった。
「ばればれだぞ~デュラン~」
「バレバレだぞ~デュラン~♪」
ホークアイとケヴィンにせっつかれて、デュランは昨晩は話さなかった事を二人に語り始めた。

「お前、馬鹿だな」
デュランの話を聞いて開口一番、ホークアイはそう言った。それにつられて、ケヴィンもばか、ばか~とデュランの肩を叩いてくる。
「馬鹿ってなんだよ。俺は、お前の助言通りにやったんだぞ」
真っ赤になりながらホークアイに食ってかかるデュラン。ホークアイはちっちっちっと指を振る。
「あの技は二人の間に深~い絆がある場合に限って有効なんだぜ?たとえば俺とリースみたいにだな」
リースが聞いたら真っ赤になって否定しそうな事を言う。そして、ぽつりと言葉を続けた。
「そっか・・・お前らまだだったのか」
「まだってなにがだよ」
「いや、まだ何もしてなけりゃ、付き合ってもなかったのかと思ってな。アンジェラの普段の様子見てりゃてっきり・・・」
「悪かったな。まだだよ、まだ。俺はあいつに何も言ってねぇよ。昨日以外はな」
赤くなってふてくされたように横を向くデュランがホークアイはおかしくてたまらない。が、ここで笑ったら絶対怒って話がこじれるので、心の中でだけ笑う。
「だいたい、気持ちなんて言わなくても伝わるものなんじゃないか?俺があいつを、す、好きだってのは、皆分かってたんだろ?あいつだけじゃないか、分かってなかったの」
ぶつぶつと呟くデュランにホークアイはいやいや、それは違うと首を振る。
「黙ってても想いが伝わるなんてのは、ただの傲慢だぜ?それに好きな気持ちってのは好かれてる本人にとっては伝わりにくいもんなんだ。周りには案外分かりやすいもんなんだけどな。伝わらない想いは意味がない。想いは形にしたり、言葉にしたりしなきゃ伝わらないんだ。ま、俺みたいに普段からラブラブパワー全開でいれば分かりやすいだろうけどな」
えっへんと胸を張って誇らしげに語るホークアイに、
「さすがはさすらいのナンパ師だな」
デュランは感心したように呟いた。
「おいこら、『さすらいの』はともかく『ナンパ師』ってのはなんだよ」
ホークアイの文句はすでにデュランの耳には届いていなかった。
「そうか・・・想いは形にする・・・か・・・」

バタン。
隣あった二つの部屋のドアが同時に開いた。ドアを開けた張本人達がびっくりして顔を見合わせる。
「あ、デュラン・・」
「アンジェラ・・」
二つの声が重なる。一瞬の躊躇のあと、
「私、デュランに話があるんだけど」
「俺、アンジェラに言いたい事があるんだ」
再び二人の声が重なった。
「あ、じゃあ、ここじゃなんだし、場所変えようか」
アンジェラの提案で宿屋から外に出ることにする。二人が連れ立って宿屋を出て行く様子を、4つの顔が眺めていた。

村はずれの人気のない場所。村の子供が作ったのか、雪だるまが置かれている。
「昨日はひどい事を言ってごめんなさいっ!!」
開口一番アンジェラは謝り、深々と頭を下げた。嫌な事は早めに済ませておいたほうがいい。
「いっぱいひどい事いってごめん。なんか私昨日は気持ちがめちゃくちゃだったんだよね。だから感情に任せて色々言っちゃったけど、あれ、本気じゃないから気にしないでね。これからも今まで通りに付き合ってくれればいいから」
恥ずかしさから次々と言葉を吐き出す。そんなアンジェラにデュランは、
「今まで通りに接するのは無理だ」
と言った。
「どうして?怒ってるの?」
アンジェラは信じられないという顔をした。
「昨日の事なら今謝ったじゃない!!それでも許してくれないって言うの!?それとも・・・やっぱり私の事が嫌いなの?・・・やっぱり私が迷惑なの・・・?」
「違う!!!」
思いのほか強かったデュランの語調にアンジェラはびくっとした。
「俺・・・アンジェラの気持ちに今まで答えてやれなくて、ごめん。・・・恥ずかしかったんだ。わざわざ気持ちを口に出すのが。だから黙ってても俺の気持ちは伝わってると思ってた。アンジェラが俺の事を好きだと言ってくれるように、俺もアンジェラの事が好きだという事を・・・」
絶望的だったアンジェラの表情がみるみるうちに明るくなる。
「昨日言った事は本当に嘘じゃない。俺はアンジェラが好きだし、アンジェラを必要としてる。アンジェラは誰にも必要とされてないわけじゃない。少なくとも、俺はアンジェラが必要だし、皆だって」
デュランの言葉は飛びついてきたアンジェラによって途中でさえぎられた。
「嬉しい!」
ただそれだけを言葉にし、ぎゅ~っとアンジェラはデュランに抱きついた。デュランもアンジェラを抱きしめる。
「私、不安だったんだ。デュランはいくら私が好きだと言っても全然何も言ってくれないし。嫌われてるんじゃないかと思ってた。でも、私には気持ちを押し付ける事しかできなくて・・・」
「いや、俺の方こそ、アンジェラみたいに気持ちを言葉にする事ができなくて、アンジェラを不安にさせてすまなかった。これからは俺もアンジェラみたいに言葉や態度に出すようにするよ。・・それからこれ」
デュランは手に握っていた物をそっとアンジェラの手に握らせた。それは小さなメダルだった。
「俺がフォルセナの剣術大会で優勝した時に貰ったものだ。俺にとっても大切な物なんだ。これをアンジェラにやる。これが、俺がアンジェラを守る証となる。アンジェラはもう一人じゃないよ」
デュランの言葉にアンジェラは満面の笑みを浮かべた。そして、デュランの目を下から覗き込む。
「嬉しい・・!!ありがとうデュラン。でも私、ただ守られてるだけの女じゃないからね。覚悟しといて」
そしてデュランの胸に顔を寄せる。
「私、もっとわがままになるかもしれない。今よりもっと気持ちを押し付けるかもしれない。でも、それでも、嫌いにならないでね?デュランも、今よりもっといっぱい、気持ちを見せてね?」
「ああ、ちょっと恥ずかしいけど努力するよ」
「もう、お母様に認められなくてもかまわない。私にはデュランがいてくれるから・・・」

ここにデバガメ組が4人。デュランとアンジェラの仲の行方が気になった(半分は面白がった)ホークアイ、リース、シャルロット、ケヴィンの4人が雪の積もった植え込みのすきまから二人の様子を見ていた。
「これで、また一組バカップルしゃんが誕生でちね」
シャルロットがやれやれとため息をつく。
「だから私とホークアイさんは別にそういうわけじゃ・・・」
「あ、ひどいなぁリース。あの日誓った俺達の愛を否定するわけ?」
あわてて否定するリースにホークアイがいたずらっぽく視線を送る。
「そんなもの、誓ってません!!」
真っ赤になってリースは否定した。その様子を横で見ていたシャルロットはまた、はぁ、とため息を漏らす。
「ふぅ、やっぱりバカップルしゃんでしね。シャルロットは独り者しゃんでち。さみしいでちけど、ヒースが帰ってくればシャルロットもラブラブになれるでち」
「俺も独り者だぞシャルロット。シャル、俺とラブラブになるか?」
いまいち意味の分かってなさそうなケヴィンが、にこにことシャルロットに話し掛ける。
「シャルロットはヒースがいるから、ケヴィンしゃんには悪いんでちが、お断りするでち」
「そうかーそれは残念だ」
あまり残念でもなさそうな口調でケヴィンが言う。その向こうでは、
「なぁリース?いつになったら俺達の仲は進展するわけ?」
「///そんな事、知りませんっ」
ホークアイがリースに迫っていた。そして、植え込みの向こうでは、デュランとアンジェラが幸せそうに寄り添って、キスを交わしていた。

2001年5月13日脱稿


《終》


前半のシリアスな様子から一転して、後半はラブコメ(?)になってしまった。いいのか?これで。
途中が痛い。最後も痛い。なんか痛い所ばっかりだ。これも「悪魔的紳士」のように直視できなくなってしまうのだろうか。
聖剣3はずっとやってないので記憶があいまいだが、多分こんな感じだったと思う。
元々はアンジェラの母親に対するわだかまりを入れつつ、デュラン×アンジェラのシリアスにするつもりだったのだが、なんでこんな痴話喧嘩ものになってしまったのだろう。なんか勝手にキャラが動いてしまった。
この話はマユヲさんにリクエストされて書きました。リクエストされたと言っても電話で「デュラン×アンジェラ書いて」と会話の合間に言われただけなのだけど。私自身は一応ホーク×リースなのだが、デュラン×アンジェラも好きです。同人誌いっぱい持ってるし。
というわけで、この話はマユヲさんに捧げます。貰ってね。


聖剣3か…本当に若かったな俺。リアルタイムで聖剣3やってた頃はまだ高2の十七歳だったよ…懐かしいな…十七でまだゲームやってて、現在でもゲームはやってるさ…ああ、やってるさ…
電話で依頼は本当の話です。そゆ子君と妄想話してたら、私が読みたくなってつい「デュラン×アンジェラ話書いて!!」とお願いしたのです。そゆ子君、ありがとう!!
そゆ子君が自ら「直視できない」とのたまったこの聖剣3ネタですが、私は大好きなので『準備室の電磁波』テキストから引っ張り出して来ました。


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