Just Communication 秋の良く晴れた日曜日。竜崎桜乃は氷帝学園に来ていた。 今日は3日間開催される氷帝学園の文化祭の最終日。 ここの生徒であり、テニス部部長でもある3年、跡部景吾に招待されたのだった。 正門の前で、桜乃は跡部を待っていた。 約束の時間は午前10時。だが今はそれを15分も回っている。 「遅いなぁ・・・」 桜乃は左腕の腕時計に目を落とす。 トロの顔が全面に描かれている腕時計は先日買ったばかりの物だ。 今日出かける前に、きちんと電話の時報で時間を合わせてきたから時計が狂っているという事はないはず。 買ったばかりの時計が壊れるというのなら話は別だが。 跡部から送られてきた招待状をバッグから取り出す。 文化祭の日時と共に欄外に跡部の直筆で『10時に正門にいてくれ。迎えに行く』と書いてあった。 「正門ってここでいいんだよね・・・」 呟きながら、自分が側に立っている門に書かれている言葉を確認する。 『氷帝学園・中等部』の文字が見え、その隣には『氷帝学園文化祭』の文字の書かれた立て看板が書かれている。 「跡部先輩、早く来ないかなぁ・・」 桜乃はため息をしながら空を見上げた。 一方、こちらも正門前。先ほどから跡部はある姿を探して走り回っていた。 普段は人を待たせる事などなんとも思わない跡部だが、今日ばかりは待ち合わせ時間の10分前には待機するという念の入れようだった。 「おい、樺地。そっちにはいたか?」 「いません」 巨体の連れに彼女の所在を確認する。 いつもの「ウス」という返事を期待したが、樺地は跡部の望む答えをくれなかった。 さっきから門の周りは他校生や氷帝学園の生徒でごったがえしている。 その人ごみの中に、見慣れた長いみつあみは見つけられなかった。 待ち合わせは確かにここでいいはずだ。 自分の送った招待状はちゃんとコピーまでして、ポストに投函した日付と共に机の前に貼ってあった。 桜乃から来た返事の葉書にもちゃんと『10時に正門前で待ってます』と書いてあったではないか。 携帯で居場所を確かめればと思うだろうが、桜乃は携帯電話を持っていなかった。 それならプレゼントしようと買ったのだが、厳しい祖母に返して来いと言われた、と桜乃から返された。 以来、彼等の連絡方法はいまどきレトロな郵便と、自宅の電話である。 唐突に、桜乃が方向音痴だという事を跡部は思い出した。 自分は確かに正門で待っていると書いた。だが、氷帝学園には正門がもう1つある。 バスの路線が変わった為に、今はもうほとんど使われなくなってしまったのだが、確かに旧門の方も正門だ。 使わないなら閉めておけばいいのだが、地元の生徒はそこから出入りする者が多い為解放されている。 バス停からまっすぐ歩いてくれば普通は現在の正門の方にたどり着くのだが、なにせ相手は桜乃だ。 跡部は樺地を呼び寄せた。 「俺はこれから旧門の方に行ってみる。お前はここで桜乃ちゃんを探してろ」 「ウス」 樺地の返事をろくに聞かずに、跡部は旧門の方へと走り出した。 もう20分もたつよ・・・さすがの桜乃も何か変だなと感じ始めていた。 跡部自身が約束を忘れている事や、時間に遅れてくる事を桜乃は疑っていなかった。 疑うとしたら、まず自分自身だった。 「もしかして、私、また場所間違ってる・・・?」 不安に襲われた桜乃は、ちょうど側を通りがかった氷帝学園の制服を着た男子生徒の二人連れに声をかけた。 桜乃にしては珍しく勇気のある行動である。 「あ、あ、あのっ」 「なんですか?」 長身のライトグレーの短髪の男子生徒は、人の良さそうな笑顔を浮かべて桜乃を見下ろした。 隣の帽子を後ろ向きに被った黒髪の男子生徒は、桜乃の事をジロリと睨んでいたが。 「あ、あのっ、ここって正門で間違ってないですよね?」 「正門・・・ですか?違いますよ?」 長身の男子生徒に笑顔で否定されて、桜乃の目の前は真っ暗になった。 「え、え、で、でも・・ここに、ちゃんと、『氷帝学園中等部』って・・・!!」 桜乃の示す門を、長身の生徒はにこにこと眺める。 「ええと・・・確かここって数年前までは正門として使われてたんですよ。そうですよね?宍戸さん」 長身の生徒は隣に立つ帽子の生徒に確認する。 宍戸と呼ばれた帽子の生徒はめんどくさそうに返事をした。 「あぁ。俺等が1年の時まではな。バスの路線が変わったかだったかで、今は南門が正門になってる」 「だそうですよ。・・待ち合わせかなんかですか?正門、分かります?」 二人の言葉に桜乃は目に見えるほど青くなった。 バカ、バカ、私のバカ!!また間違えちゃったじゃない!! 「おい、長太郎。こんな子に構ってないで早く行くぞ。早くしないと特製焼きそばパンが買えねぇ」 「ちょっと待って下さい宍戸さん。ねぇ君?正門の場所は分かる?」 「い、いえ、全然・・・」 涙目になりつつ桜乃は小さな声で返事をした。 「説明・・・しても、多分分からない、かなぁ・・・?」 「おい、長太郎。早くしろ」 「宍戸さん、先行っていて下さい。俺、この子を正門まで送ってきますから」 「あ?んなめんどくさい事しなくても場所だけ説明すればいいだろ」 「でも、この子がちゃんとたどり着けるかどうか心配だし・・だったら自分で送った方が早いですから」 爽やかな笑顔でそう宣言する長太郎を見て、宍戸もしょうがねぇな、と舌打ちした。 「おら、行くぞ」 長太郎と桜乃の先に立って歩き出す。 「え、でも、お二人にご迷惑です。私なら場所さえ聞けば分かりますから!」 桜乃はぶんぶんと首を振って断ったのだが。 「いいんだよ。気にしないで」 長太郎がにっこりと桜乃の言葉を遮り、彼女の手を取った。 「俺達が好きでやってるんだから。」 そうして長太郎は優しく桜乃の頭をなでた。桜乃は黙って頷いた。 二人に連れられててくてくと歩く。道中の自己紹介で、彼等が宍戸亮と鳳長太郎という名前だと知った。 テニス部所属というのを聞いて、桜乃は目を丸くした。 「あ、じゃあ、跡部先輩と同じなんですね!」 「跡部先輩を知っているんですか?」 「知ってるも何も、今日は跡部先輩に招待されたんです」 「あ?・・おい、長太郎、俺等少しやばくねぇか?」 「・・・俺も、嫌な予感がします」 その時、地平線の彼方から土煙を上げながら、何かが高速で近づいてくるのを長太郎は発見した。 宍戸もそれを見てひきつった顔をする。 「桜乃ちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん!!!!!!!」 やけにエコーのかかった叫び声を上げながら、跡部景吾がマッハの速さで近づいてくる。 長太郎と宍戸は逃げ出したいと同時に考えたが、逃げた方が後でめんどくさい事になる事を知っていた為、この場にとどまった。 キキーッと音でも立てそうな勢いで跡部は急停車し、長太郎の手から桜乃を奪い去り肩を抱きしめた。 「桜乃ちゃん!!大丈夫だったか!?何かされなかったか!?」 「あ、はい・・平気です。道案内してくれ・・・」 桜乃の言葉を最後まで聞かず、跡部はキッと長太郎と宍戸を睨みつける。 長太郎はびびった顔をし、宍戸はげんなりとした顔をした。 「おい、鳳。それから宍戸。俺の桜乃ちゃんに変な真似してねぇだろうな?」 「そ、そんな事するわけないじゃないですか、跡部さん(恐ろしくて出来ませんよ、俺には)」 「あぁ?俺がそんな女に興味あるわけないだろうが、跡部(激ダサだぜ)」 二人に指をつきつけ、眉を八の字にし斜め45度の角度でガンたれる跡部は、チンピラそのものである。 桜乃はそんな跡部の左腕にまだ肩を抱かれたままだ。 「あ、あの・・跡部先輩。私、別に何も・・」 「桜乃ちゃんは黙ってろ。これは俺とこいつらの問題だ」 「で、でも・・・」 桜乃に弁明の余地を与えず、跡部は引き続き二人を脅す事を続けた。 「いいか、お前等。次はねーからな」 「わかりました(だから誤解ですってば)」 「あぁ(次は関わんねぇよ)」 ようやく跡部から解放された宍戸と長太郎は、大急ぎでこの場を去っていった。 購買部へと二人で走る。 きっと桜乃を案内したりせず、場所だけ教えてあのまま特製焼きそばパンを買いに行けばよかったと思っている事だろう。 親切で道案内を申し出たのに跡部には恨まれるし、10時半から限定販売の特製焼きそばパンも買い逃したのでは、踏んだり蹴ったりである。 「大分遅れちまったけど、じゃ、行くか」 「はい!」 跡部は桜乃の背に手を回し、制服のポケットから文化祭のパンフレットを取り出した。 その後、無事特製焼きそばパンを買い、ついでに限定ヨーグルトを2種類手に入れた宍戸と長太郎は、正門前にいる樺地を発見した。 跡部が桜乃と文化祭を楽しんでいる今も、樺地はお昼も食べずに律儀に桜乃を探し続けていたのである。 樺地の労力と跡部への忠実さに涙した二人は、樺地に限定焼きそばパンを分けてやったのだった。 2002年11月11日 《続》 突発で出来た跡桜です。今週のジャンプに景吾登場おめでとう記念です。 ついでに今週アニプリ宍戸&長太郎登場記念も兼ねてます。 これって別に普通のドリでもいけたネタだよね?わざわざ跡桜にする意味ってあったのかしら。 ああ、部分部分がギャグだから、跡桜の方がやりやすいと思ったんだよな、そういえば。 ええと・・ちなみに一番書きたかった部分をまだ書いていないので、何気に続きます。 |