HAPPY DAYS?


久しぶりに鉄の拳を握りたくなったので、私は近所のゲーセンに向かった。


地元のゲーセンというものは、知り合いに会いやすい為いつもは避けていた。
が、先日、いつも私が行っているゲーセンが閉店してしまったのだ。
あそこは1ゲーム50円でプレイできるので重宝していたのに。
同じ100円なら遠いより近い方がいい。それに知り合いに会いやすいとは言っても、 今までゲーセンで誰かに会った事はなかった。
案外、皆ゲーセンには来ないものなのだと思う。

入り口を入ると、ゲーセン特有の騒音が私を包んだ。
目指す物は決まっている。まっしぐらにその場所に向かう。

ソレを、プレイしている者は誰もいなかった。
ラッキーだなと思い、椅子に座った。
ちらりと辺りを見回し、灰皿が2つ隣の台にあるのを見つけ、持ってきた。
隣の台の椅子を引き寄せ、バッグをのせる。
バッグから煙草と財布を出し、100円玉を投入する。

デモシーンが切り替わり、メニュー画面に変わり、ボタンを押すとキャラ選択シーン へ変わった。
ここは、やっぱ一八だろ。
私は、重力に逆らった髪型をした、げじげじ眉毛の目つきの悪い男を選択した。

煙草の灰を灰皿に落としながら、ああ、この感触は久しぶりだなぁと思う。
ゲームが始まった。


1回クリアしてもう1度一八でまったりプレイを楽しんでいると、画面が一時停止し た。
乱入されたようだ。

んだよ、めんどくせぇな。
とりあえず軽く相手してやるか。

乱入してきた李を軽く捻りつぶしておいた。
あの程度、私の敵ではない。家ではもっと強い猛者を相手にしているのだ。

俺に挑戦するなんて10年早ぇんだよハゲ。

そう思って、煙草を吹かしているとまた乱入された。

なんだ、またか。
今度は相手は平八を使ってきた。

また、軽くひねりつぶした。しかもさっきより手加減なしでノーダメージで勝ってみた。

これだけやれば格の違いというものが分かるだろう。
しかし相手は理解しなかったようだ。
さっきより早いタイミングでコンティニューしてきた。

仕方がないのでまた相手をする。
またぶちのめす。
またコンティニューで乱入される。


それをしばらく繰り返した。


なんなのだ。何回勝っても挑戦されて、私は次第に嫌気がさしてきた。
もうこれで何回目だろうか。相手もよく金があるものだ。
私はタダでプレイできるからいいけど、そろそろ飽きてきた。

だいたい対戦をする為にここに来たわけじゃない。
久々にアーケードで一八を使いたかったから来ただけだ。
もう十分一八も使ったし、疲れてきたし、飽きてきたし、次にまたコンティニューしてきたら軽く相手してわざと負けよう。がっはっは


「YOU WIN!」の文字が表示される。さて、相手はどう出てくるか。

相手は諦める事を知らないらしい。再びコンティニューしてくる。
よほどの負けず嫌いなのだろう。だが、私がそれに付き合う義理はない。

向かってくる仁の攻撃を適当に防ぎながら、私は負けるタイミングを見計らってい た。
技を出し、わざと隙を作る。
私の作った隙にこれ幸いと向かってくる仁。よしよし、それでいい。
技が決まり、一八の体力ゲージが黄色くなる。
あと1つ大技でも決まれば私の負けだ。


相手の意図が読めたので、それにわざと引っかかってやった。
「YOU LOSE」の文字を見ずに、私はバッグを持って立ち上がる。
やれやれ、ようやく帰れる。
誰だか知らないが、君のおかげで何回もタダでプレイできたよ、ありがとう。

最後にこの負けず嫌いの顔でも見てやるかと去り際に反対側の対戦台を見た。


中学生くらいの男の子だった。学ランを着ているし、小学生という事はないだろう。

少しつりあがった大きな目をしていて、なかなか顔立ちはいい方だと思った。

ゲーム画面ではなく彼はじっとこっちを見ていて、私と目が合った。

「ねぇ、今わざと負けたでしょ」
まだ声変わりのしていない声で彼はぼそっと呟いた。

「むかつくんだよね、そういう事されると」
不服そうな顔でじっとこっちを睨んでくる。

「ちゃんと本気出してよ」

挑戦的にこちらを見上げてくる彼を見て、クソ生意気なガキだなと思った。
明らかに私の方が年上だし、初対面の相手に敬語くらい使えよ。

こんな小僧に関わり合いになる事はない。
私は黙って彼に背を向け、帰ろうとした。


「逃げるの?」

挑発を含んだ声が追いかけてきた。
無視無視。こういうのは無視するに限る。

彼の言葉に答えずに歩き出す。
これから重大な用事があるのだ。
巨人の優勝セールのタイムサービスで蜜柑が1袋155円だから、帰り際に買っていかなくては。
数が制限されていないので早く行かなくては売切れてしまう。

私の焦る気持ちをよそに、少年はしつこく話しかけてくる。

「あーあ、嫌だよね。勝ち逃げする奴って」

無視、無視するんだ、私。大事な蜜柑が待っているのだ。

「年下相手に大人げないよね。子供相手に勝って喜んでるんだから」

おめぇが弱ぇからだよ。悔しかったら俺に勝ってみろ。
思わずそう言って対戦台に座りそうになってしまった。

危ねぇ、危ねぇ。挑発に乗る所だった。
一瞬嬉しそうな顔をした少年が、ふてくされた顔をする。

「これだけ言っても何も言わないんだ?」
「・・・・・・・・・」
「まだまだだね」
腹立つな。なんでこんなガキンチョにここまで言われなきゃならねんだ?

…殺す。


「後悔すんなよ、少年」

少年にそう宣言すると、また対戦台に戻り、100円玉を取り出した。

少年は「そう来なくちゃね」と目を輝かせた。
その顔が悔しさに歪む事になるのにそう時間はかからなかった。



手加減なしのバトルが続く。
いつの間にかギャラリーが周りを囲んでいた。
私の一八は、彼の操る仁や李や平八やシャオユウ等を完膚なきまでに叩きのめして いった。

何十回目か分からない「YOU WIN」の文字が画面に表示される。
コンティニューされるのを待っていたが、一向にそれをされる様子がない。

対戦台の向こう側をのぞいてみると、少年が「くそっ」と言いながら、脇に置いたテ ニスバッグや制服のポケットをあさっていた。
口の開いたままの財布が見える。中身は空っぽだ。

どうやら、少年は軍資金が尽きたらしい。


そこへ、学ランを着た短髪の背の高い中学生が現れた。
対戦台の前に座る少年を見つけると、声をかける。

「おっ越前じゃん。何やってんだ、お前?」
「桃先輩。お金貸してください」
「あ~無理無理。今日こづかい日だからって俺さっき全部つかっちまった。今1円も ねぇよ」
「くそっ」

越前と呼ばれた少年は心底悔しそうに顔を歪めた。
大量のギャラリーしょって、年下相手に大人げなかっただろうか。
でも、まぁ、売られた喧嘩は買わなきゃ女じゃないよな。
それに手加減するなと言ったのは向こうだし、私はその言葉に素直に従っただけだ。


「じゃあ。帰るから」

彼のお金も尽きた事だし、私はもう解放されていいだろう。
携帯で時間を確認すると、タイムサービスがもうそろそろ終わってしまう。
まだ蜜柑は余っているだろうか。
夢中になって対戦していた私も悪いが、これで買えなかったら恨んでやる。


もう終わりか、とギャラリーが三々五々散っていく。それに混じって私も出口へと向 かう。

車のキーを出そうとバッグに手を入れたら、それごとぐいっと腕を引っ張られた。
振り返ると、『越前』少年が立っていた。私とそう目線の高さは変わらない。


「ねぇ、またここに来るよね?」

挑戦的な瞳でそう聞いて来る。
あれだけぼこぼこにしばき倒されておきながら、彼の闘志はまだ死んでいないらし い。

「いや、もう来ないな」
「なんで」
「基本的にここは来たくないから。1プレイ100円は高いんだよ」

そう言うと、彼は考え込む様子を見せた。

「家はどこ?」
「は?ここから車で5分もかからんな」
「そう。このへんに寺があるの知ってる?」
「ああ、あそこか。分かるよ」
「そこ、俺の家。これから家で対戦しよう」
「はぁ?何を言ってるんだ、君は?」

コイツ頭おかしいじゃないだろうか。
いきなり見ず知らずの女を家に招待するか?
それとも、最近の中学生の間では、それが普通なのか?
義務教育なんてかなり前に終えてしまったけれど、でもやっぱりそれは普通じゃない と思った。

「アンタに勝つまで、今日は帰さない」
「そんな事言われても、私にも用事があるんだが」
「明日土曜だし、暇でしょ」
「暇かそうでないかと言われれば暇な方だ」
「じゃ、決定。来て」

そのままぐいぐいと腕を引っ張っていく。
なんなんだ、この強引さは。
つうか、中学生にナンパされてどうするよ、俺。

「人の意見を聞けよ。少年」
「やだ、却下」

背丈は私とほぼ変わらないくせに、私の腕を掴む力は強く、がっちりと押さえ込まれ てしまっている。
困って辺りを見回すと、さっき『桃先輩』と呼ばれていた中学生が、ぽかんと口を開 けてこっちを見ていた。

「ちょっと、そこの中学生!少年の知り合いだろ、説得してくれないか」

掴まれていない方の手で指差して呼ぶと、彼ははっとしたように私達の方に近づいて きた。
そして、少年の肩に手をぽんと置く。

「越前、俺の目の前でナンパとは、お前もスミにおけねぇな、おけねぇよ」
「そうスか」
「そうじゃねーだろ、中学生」

思わず『桃先輩』にツッコミを入れる。
彼はにまにまと笑うばかりで、全く役に立ちそうになかった。

全く最近の中学生は教育がなっていない。

「だいたい私、君の名前も知らないんだけど」
『越前』に指を突きつけて指摘してやると、
「越前リョーマ。これでいい?」
挑戦的な瞳で見つめられた。

その顔は…なかなか将来有望だ、と思った。
いやいや、中学生相手に何考えてとるんだ、俺。

「おねーさんの名前は?」
「マミ屋マユヲ」
反射的に本名を答えてしまう。しまった、偽名にしときゃよかった。

「ふーん、マミ屋マユヲさんね。じゃ、行こうよ、マユヲ」
「待て小僧。何いきなり人の名前呼びすてにしてんだよ。あたしはこれでも君より年上だぞ?」
「関係ないね。親愛の情を込めてるんだけど?」

そんなもん込めなくていいから解放してくれ、頼むから。
なんで私は中学生にナンパされなきゃならんのだ。
私はこれでも一応連れがいるんだぞ、この野郎。

頭の中で色々な事を考えながら彼に引きずられるように歩いていくと、リョーマが振り返った。

「そんなに心配しなくても別に変な事はしないよ。今日はゲームするだけだから。今日は、ね」

今日じゃない日には何かするつもりなのか、中学生。
…アタシは子供を喰う趣味はないぞ?


「つうか、越前君がずっと勝てなかったら私はどうなるんだ?おい」
「さっき言ったじゃん。俺が勝つまで帰さないって」
「随分勝手だな・・」
「あ、先に言っとくけど、手加減したら許さないから」



リョーマの家に行く前に、マルエツに寄って蜜柑を買った。
広告には出てなかったくせに、お一人様1点限りと札が出ていたけど、リョーマがい たので2袋買えた。
それはまぁ良かったかもしれない。


それから、リョーマの家に行き、蜜柑を食べつつ対戦をした。
結果は私の圧勝。元々私はアーケードよりコンシュマーの方が強いのだ。
「にゃろう」とか言いながら何度もしつこく挑戦してくるリョーマを見るのは、なか なか楽しかったとも言える。

夕ご飯までごちそうになり、その料理は結構おいしかった。
自分がここにいる事に違和感を覚えないと言ったら嘘だけど。
細かい事は気にしない事にした。気にしたら負けだ。

それからずっと、お子様なリョーマが眠くなるまで私はリョーマと対戦をした。



「もう終わりか?君が勝つまでやるんじゃなかったんかい?」
「・・・ねむ・・・」

リョーマはふわぁぁぁとあくびをした。
俺だってもういい加減疲れてきているし、眠いし、帰りたい。

「君。私を今日は帰さないんじゃなかったっけ?」
「ああ、泊まってく?部屋なら余ってるし、ここでもいいけど?」
「遠慮する」
「そう、残念だな、じゃあまたね、マユヲ」

あっさりそう言ってリョーマは服のままベッドに倒れこんだ。
彼の愛猫のカルピン(さっき名前教えてもらった)がその上に丸くなる。

おいおい、うつぶせで寝ると窒息死するぞ?
寝息を立て始めたリョーマを見て、寝つきの速さに驚愕しつつ、そのままじゃ風邪引くだろうからと布団をかけてやった。



夜道を車を走らせながら思った。
中学生に振り回されて、一体今日の俺は何なんだ。

でも、それも別に嫌な気がそれほどしなかったというのが、今一番問題のような気がした。


2002年11月3日


《終》


こんな感じです。ほら、恩を仇で返してるでしょ?(笑)
君の許可さえ貰えればサイトにアップします。
その時のデフォルト名はちゃんと「菊地侑子」に変えるけど。
予想以上に長くなってどうしようかと思ったよ。
鉄をプレイしてる時の君の様子を思い出しつつ書いたのだけど、詳細とか間違ってる かもしれないが。
っていうか、全然甘くなくてごめんね!なんか大人げなく対戦してる君とリョーマが 書きたかっただけなんだよ!

それでは。このアドレス送ってちゃんと届くよね?


soyuko氏がオイラの為に書いてくださった作品、いわゆるドリーム小説です。
モデルは私だそうです。子供に連コインさせる俺、大人げないな。

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