087:人形[モモ+ジギ]
広場中央、噴水の前に人だかりができていた。
にぎやかな音楽の中、集まった人々は手を叩いたり、笑ったりしている。
その楽しそうな様子に二人とも思わず足を止める。
人垣の間から見えるのは、コミカルなダンスを見せる人形達。
なるほどと納得する。
「ジギー。何をやっているのでしょう?」
モモの身長では、人垣に隠れて何がなんだかさっぱりだろう。
ジギーはモモを片手でひょいと持ち上げた。
「見えるか? モモ」
「わぁー、人形劇ですね。モモ、本物の人形劇を見るのは初めてです。上から糸でつっています」
「マリオネットだな」
「まるで生きているみたいにダンスをしていますね。すごいです」
人形劇は大盛況のうちに終了し、集まった人々から拍手喝采を受けていた。
モモもずっと拍手をし続けていた。気に入ったらしい。
拍手が落ち着いたところで、座長らしき人が登場し挨拶をする。
――たくさんの拍手、ご声援ありがとうございました。本公演もよろしくおねがいします。会場は第二ミルチアの市民ホールです。チャリティーショーとなっておりますので……。
「どうやら本公演前の宣伝を兼ねてのイベントらしいな。モモは観に行きたいか?」
モモをゆっくり降ろす。
「ええ、行きたいですけれど、そのころはもう第二ミルチアにはモモ達いませんね」
「そうか……、忘れていた」
ショーが終わって人垣が散っていった中、劇団員達はセットの片づけをしていた。
その様子をモモはじっと見つめている。
人形の糸が絡まないよう、一つずつ丁寧に箱につめていく。
ショーの間、まるで本当に生きているかのように動き、豊かな表情を見せてくれた人形達は、整然と箱に並べられている。そこには何の感情も見えてこない。
これはただの人形なのだから、当たり前のことなのだ。
片づけられていく人形をじっと見ていたモモが言った。
「ジギー、モモも同じですか?」
「同じとは、何がだ?」
「あの人形たちは、ショーの間本当に生き生きとしていて、笑ったり泣いたりしていました。でも、あれはそう見えるように操って動かしていたからなんですよね」
「モモは違う」
「でも、モモの心はオプションで笑ったり泣いたりするのは、そう反応したほうが人間関係がうまく行からなんです。モモがママに愛されたいと思うのは、そうプログラムされていたから……。本当は何も感じていないのかもしれない。だって、モモは……」
――木偶人形
「モモ」
ジギーの呼びかけにモモは顔を上げる。
「ごめんなさい。モモ変なことを言ってしまいました」
「人形はそんなことに悩んだりしない。いや……感情なんて、他人にはわからない。あの箱に並んでいる人形だって、何かを感じたり思ったりしているのかもしれない。俺はサイボーグになれば感情など無くなり、楽になれると思っていた。だが、違った」
「ジギー?」
「本当に感情があるかどうかなんてわからないと言うのは、すべての人間に共通のことだ。感情を感じられるのは自分だけだ。モモが、楽しかったり悲しかったりしているのなら、それで十分だろう。俺はモモが楽しそうに笑うのが好きだ」
モモは顔を上げジギーを見た。
そして、少し笑んでそっとジギーの手を握った。