084:お買い物[ジギ+モモ+シオン]
わざわざ出向かなくても、大抵のものは手に入る。
それも、欲しいと思った瞬間に。
通販……転送という手段で。
それでも、店は無くならない。
通販は失敗することもある。
実際に触れて見ないとわからないこともある。
ぱっと見た瞬間に心が通じてしまう品がある。
同じモノはたくさんあるのに、どうしてもそれで無いと駄目だと思える。
だから、人は実際に出向いてショッピングを楽しむ。
父娘と考えると、かなり若い頃にできた子どもだというのが、仲良くショッピングを楽しむジギーとモモに対する周りの印象だっただろう。
モモはジギーを見上げてにっこり笑った。
「本当にありがとうございます。付き合わせてしまって退屈だったでしょう? ジギー」
「いや、そんなことはない。色々と面白かった」
ジギーは荷物を抱え、モモの歩幅に会わせてゆっくりと歩く。
荷物はモモの身体に会わせた小さなキッチン道具。
最近、モモは料理に興味を持っている。
シオンと一緒にエルザのキッチンで料理をする。
一生懸命料理と奮闘するモモは、心より楽しそうだった。
でも、エルザにあるフライパンも鍋も、モモの手には重すぎて四苦八苦する様子に、シオンは子供用のフライパンを買いにいくことをすすめたのだ。
歩いている左側の視界にあるショーウインドウに、なにかが目に入った。
ジギーは、ふっと足を止める。
ジギーがついてこないことに気が付いたモモも立ちどまり振り返った。
「ジギー?」
「モモ、そこで待っていてくれ。すぐに戻る」
「あ、ではモモも行きます」
「駄目だ。そこで待っていろ。わかったな」
ジギーは笑いながらそう命じる。
「はい」
モモはきょとんとして、でも素直に頷いた。
少ししてから、小さな袋を抱え、店から出るジギーを見つけるとモモは小さな手を振った。
「ジギー、何か欲しいものがあったのですか?」
「ああ、ちょっとな」
ジギーは珍しく機嫌の良さそうな笑顔を見せた。
エルザのキッチンで、モモとジギーとシオンは鍋やフライパンを片づけていた。
「これで、料理ができそうだな」
「はい。シオンに色々教わろうと思っています。よろしくお願いします。シオン」
「ええ、レパートリーはあまり多くないけれど、楽しく料理しましょうね」
シオンは棚を整理しながら言った。
完全に片づけ終えてから、ジギーは今日のショッピングで買った包みをモモに差し出した。
「ジギー? これは」
「ああ、プレゼントだ」
「でも、悪いです」
「気にするな、今日一日楽しませてもらった礼だ」
モモの、顔がパーッと明るくなる。
「では、遠慮無くいただきます。開けていいですか?」
「もちろんだ」
モモは、袋を開いた。
中にはピンクのフリルがついたエプロン。それも大人用と、子供用が一つずつ。
「わぁ、かわいいです。こっちは? ……あ、シオンのですね!」
シオンは目を丸くして、袋を覗き込んだ。
「私にもですか?」
「そうだ、一緒にキッチンに立つのならお揃いがいいだろう」
「つけてみていいですか?」
「もちろんだ」
おそろいのエプロンをつけるモモとシオンは、本当に年の離れた仲の良い姉妹のように見え微笑ましいとジギーは思った。