075:シーツ[ジン+シオン+モモ]
水没都市で少々ダメージを受け、いったんエルザに戻りコンディションを整えた。
兄の服はかなり派手に汚れている。
仕方なくシオンは、ジンの普段着である和服を洗濯しようと脱いでもらうことにした。
着替えを探すが見つからない。
「あ、シオン……着替えはありませんから」
「着替えを持ってきてない?? すぐに注文して転送してもらってよ」
「いえ、それがですね、あと三日はかかるんですよ」
「なぜ? 転送ならあっという間にできるはずよ」
「いえ、転送だけならばそうなんですが、なんせ着物は特注で仕立て上がりに5日はかかるんです。まず、設計図を探すのに一苦労でして……」
シオンはあきれ返ったという表情をジンに向ける。
「もう、兄さんったらいい加減に着物なんて着るのやめてよね。第二ミルチアの街でも悪目立ちしすぎている格好なんだけど、この宇宙船エルザの中ではそれ以上に異様よ」
「でも、ウヅキの家のしきたりですから」
「しきたり? そんな話聞いたことないわ。勝手につくらないでよね。でも、洗濯しないわけにはいかないし。仕方ない、そのシーツでも身体に巻いておいてよ。すぐに乾かすから」
「面倒かけますね」
兄はすまなさそうな顔で笑った。
シオンはため息をついて、兄をちらりと見た。
それにしても、着る物がなくてベッドの上で裸の身体にシーツを巻き付けただけでちょこんんと座る兄は情けなさ過ぎる。
はやいところ、お嫁さんにきてもらわないと……。
かといって、たとえばミユキとかヴェクター社の女性社員を紹介などとても恥ずかしくてできない。
第二ミルチアで、兄は結構な有名人で人気者らしいことは街の人たちの反応でわかった。
――ウヅキ先生みたいにすてきな人にデートに誘われたらすぐにOKなんだけど。
なんてことを言っていた女性がいた。
だが……あれは、珍獣を見る好奇目だ。
そうに違いない。
だって、この兄を『すてき』なんて正気の沙汰とは思えない。
それにしても、こんな兄の嫁になってくれる殊勝な女性などいるのかとても疑問だとシオンは思った。
しかし、なんとしてでも嫁を捜さないと……お嫁さんかぁ……どうしよう。
シオンは口の中でぶつぶつ呟いていた。
そこへノックの音。
「シオン~はいりますよ」
「あ、モモちゃん。どうぞ」
扉が開き、モモが入ってきた。
モモは一瞬びっくりしたような顔をして、まじまじとジンを見た。
そしてにっこりと笑う。
「あ、びっくりした。ジンさんドレスを着ているのかと思いましたよ」
「何を言っているの? モモちゃん」とシオン。
モモはにっこりと笑って、ある意味本気で決定的な一言を口走った。
「ええ、白いドレス着ているように見えるから、まるで『お嫁さん』みたいです」