051:ぬいぐるみ[モモ+Jr.]
自分とさほど変わらないくらい大きなぬいぐるみを両手にかかえ、モモはごきげんだった。
クーカイファウンデーションのコロニーで売られていたうーくんのぬいぐるみからモモは目を離せなかった。
それに気づいたJr.がモモにプレゼントした。
「Jr.さん、ありがとうございました。でも本当にもらってしまっていいのでしょうか」
「何、気にすんなって。モモはうーくん本当に好きなんだな。いや、女の子は皆うーくんが好きか。プレゼントの定番だもんな。シオンも好きだって言っていたよな」
Jr.はサクラの部屋にあったうーくんをふと思い出した。
あれも、両親からサクラへのプレゼントだったのだろう。
サクラは普通に話すことはおろか外界の刺激に対し、反応を返すこともできなかった。
何も感じていない。
何も見ていない。
何も認識していない。
そう思われていた。
だが、本当はサクラがとてもおしゃべりだったこと。
両親のプレゼントをとても大切にしていたこと。
そしてサクラがどれだけ両親を愛していたかということをJr.は知っている。
――パパとママに伝えて欲しい。
「Jr.さん、モモは他の女の子たちがお誕生日にうーくんのぬいぐるみをプレゼントしてもらうのが、本当はとてもうらやましかったんです」
「え?」
モモは少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた。
「モモが生まれたときには、パパはいなかったし、ママは高名な科学者でとても忙しくて、ママのやらなくてはいけないことはたくさんあって、ママの時間は世界中の人たちのためのものでしたから」
Jr.はそれとこれとは違うと思ったが、口にはできなかった。
モモは……それでも、自分が愛されていると思いたいのだ。
だから、ぬいぐるみをプレゼントされないのは、自分が愛されていないのではなく、ただユリが忙しいからだと。
そう一生懸命自分に言い聞かせている。
たぶんユリはモモに一度も微笑みかけたことはない。
いや、正面からモモを見ることすらしたことはない。
そして、一生ユリがモモを見ることはなくても、モモはずっと諦めることなくユリの愛情を求め続けるのだろう。
たぶん、ユリだってそのことに気が付いている。
Jr.はユリの最初の印象を思い出す。
優しい女性だった。
Jr.をはじめ、U.R.T.V.皆を気にかけていた。
サクラの深層領域にダイブするとき、いつも「大丈夫? 辛くない? 苦しかったら言ってね。無理しなくていいのよ」と。
Jr.は心の中でユリに語りかけていた。
モモがどれだけあなたの愛情を求めているか、分かっているんだろう?
優しくできない自分、愛せない自分。
いや、愛せないと思いこんでいるだけなんだ。
だから、傷つくのはあなたなのに。
ユリさん……。
「Jr.さん? どうしたんですか、難しい顔をして」
「え? ああ、なんでもない。ぬいぐるみを抱えているモモを見ていたら昔のことを思い出しただけさ」
「昔のことって何ですか? モモ気になります」
「あ? いや大したことじゃない。……もう少ししたら話してやるよ」
モモは、「Jr.さんなんか変」とじーっとJr.を見つめた。
Jr.はにっと笑った。
「では約束ですよ。いつか話してくださいね」
モモは腕のぬいぐるみをギュッと抱きしめにっこりと笑った。