031:シングルライフ[ジン+シオン]
「人様のライフスタイルには干渉しないって、言ったでしょう」
「そのままひとりぼっちで、老いさらばえていくの? 私は兄さんの面倒なんてみないからね」
「もちろん、あなたに面倒を見てもらおうなどと思ってはいません」
「兄さんは、さっさとしっかりしたお嫁さんをもらってよね。そうしないとこのウヅキの家系もここで途絶えることになるわ」
「私としてはシオンにウヅキを継いでもらっても一向にかまいません。あなたこそはやくすてきな旦那様を見つけなさい」
「人のライフスタイルには干渉しない……って、いつも兄さんのほうがよほど干渉しているじゃない」
プチ……また通信が切れた。
本当はこんな不毛な兄妹喧嘩をしたかったわけはない。
ただ、妹を気にかけている。妹が心配なのだ。
元気なのか?
辛いことはないのか?
心配ごとは?
こっそり泣いたりしているのでは?
困ったことは何もないのか?
相談にはいつでも応じよう。
出来る限りのアドバイスもしよう。
そして、伝えよう。どれだけ妹を愛しているかを。
それなのに、そのきっかけは見つからない。
目を閉じれば、泣くことも叫ぶこともできず虚ろな目をした幼い妹が脳裏に浮かぶ。
あのミルチア紛争。ジンがかけつけたとき、シオンは一人ぼっちであの惨状の中にいた。
瞳に何かが映っているのだけど、何も見えてはいない。そうやって、自分自身を守ることしかできなかった幼い妹。
だから、シオンの記憶はあやふやだ。覚えていないことが多すぎるのだ。
いや、心が壊れてしまわないように、心を塞ぎ記憶を封印するしかなかったのだ。
もう少し遅れたら、シオンも命を落としていただろう。
間に合ったのだ。
だが、もう少し早く駆けつけていたら、シオンはあんなに幼くして両親を失わずに済んだかもしれない。
間に合わなかったのだ。
だから、シオンは罵る。
――兄さんがもう少しはやく来てくれたら。
ジンは嘆息して、縁側から空を見上げた。
第二ミルチア……ここは暮らしやすいところだ。
ここならば、平凡でも穏やかに妹と二人暮らしていけると思っていた。
だが、本当のところは逃げていたのだ。
妹に去られたとき、うすうす気が付いていた。
妹のためにも何かをやらなくてはいけない。
だが、何を? 今の自分に何が出来るのだ。
ジンは何度も自問する。
時代が、世界が再びジンを必要としている。
そのことをジンはまだ知らなかった。