014:天体[ジン+ケイ+Jr.]
たぶん、第二ミルチアでは――というより今時どの星系でも――とても珍しいいわゆる和風の様式にのっとって建てられた家。
そんな自宅の縁側に座り、ジンは夜空を見上げる。
たくさんの星が瞬いていた。
家の中を整理した。
いらないものを人に上げた。
古書類は「先生の留守を守らせていただきますので安心しておでかけください。そして、帰りをお待ちしております」と押し掛け弟子が管理を引き受けてくれた。
それでも、少しでも整理がつけばと、欲しい本があれば持っていってくださいと、Jr.とケイオスをよんだ。
Jr.はまだ書庫に隠っている。
「ジンさん、星を見ているんですか?」
ジンは声の方向を向いた。銀色の髪の少年が目の前に立っていた。少年といっても見た目だけのことで、実際には自分よりはるかに年上であることをジンは知っている。
はじめてあった十四年前から、彼の外見はまったく変化していないのだから。
「やあ、ケイオス君。もう当分、ここから星を見ることもないのだと思うとね、つい」
ケイオスは笑う。
「不思議ですね。星など宇宙船からいくらでも眺められるのに、地上から眺める星の趣はまったく異なります」
「まだ人々が、ロストエルサレムにいて星間航行が確立される前、いや、それよりもっと前の飛行技術すら発明されていなかったころ、人は地上からの星の位置で、世界を自分の運命を占った」
ジンはぽつりと言う。
「ジンさん」
もう一つの声。その声の方向を向くと数冊の古書を手に、Jr.が立っていた。
「ああ、Jr.君、本を選びましたか?」
「俺これだけもらって行くわ」
「それだけでいいのですか?」
「ああ、残りはジンさんが帰ってきてからにする。慌てる必要は無いだろ」
そうですかとジンはにっこり笑い、Jr.が手にしている本を見ておやと言った表情をした。
「Jr君、その一番上にある本ですが」
「ロストエルサレムにかつてあった古代中国に関する本みたいだな、珍しい本だったんで」
「それは、偶然ですね。今、星占いの話をしていたんですよ。その本に『往古来今謂之宙、四方上下謂之宇』と書かれていいます。『往古』とは過去。『来今』とは未来。つまり、宙というのは時間のことなんですね。古代中国では、すでに宇宙を空間と時間という二つの概念を組み合わせてとらえていたんですね。そんな古代天文学も星占いのために発達した学問です」
二人の話を黙って聞いていたケイオスが言った。
「天体の動きってってものは規則的ですからね。何らかの法則があって、その法則を知れば自分たちの運命すべてが天体の運動の中に見ることができると思ったのでしょう。星はなんでも知っているってね。でも、そのおかげで、天文学が飛躍的に発達したのは事実です」
ケイオスの言葉にジンは微笑みうなずいた。
「その空を飛び立つことも知らなかったその当時の人々の方が、はるかに広大な世界を見ていて宇宙の本質やその利用法を正しく理解していたのかもしれませんね。U.M.Nワープ航法が発明され、宇宙は、何故でしょうか、かえって狭く見えなくなってしまっている」
そうぽつりと言うと、もう一度空を見上げた。
宙……時間。
ならば、自分にはそしてこの宇宙にはどれだけの時間が残されているのだろうかと。
三人組み合わせると会話がじじむさい(笑) それと、Jr.はジンに何て呼びかけていたんでしょうか。記憶がまったく無いのですが。「おっさん」くらいは言いそうですけど。覚えているかた、タレこんでください。(タレこまれたら修正します)