137:ダンス[ジン*ペレ]
ダンスパーティなどハイスクールの卒業パーティ以来のような気がする。
U.M.N.の仮想試着にて、ドレスと靴を選ぶ。
目移りし、どれを選んで良いかわからない。
ふと、深紅のドレスが目に入った。
やわわらかな光沢。とろりとした手触りは今は手に入らない本物のシルクと変わらないという。組成が同じなのだから、当然といえば当然だった。
そのドレスから目が離せない。
「随分と気に入ったようですね。試着してみたらいかがです?」
背中からの声に振り帰る。そういえば、ジンと一緒にパーティへ出席する服を選びに来ていた。華やかなドレスに目移りして、ずっと同伴者の存在を忘れていた。
「そうね」
ペレグリーは恋人の存在を忘れるほど熱中していた自分に苦笑した。
深い色調の紅いドレスは品がよく、よりペレグリーをの美しさを際だたせた。
「ああ、綺麗だ。本当に似合いますね。そのドレスを注文されたらいかがです?」
にこにこと満足そうな表情のジンに、ペレグリーはため息をついた。
「注文したいけど、これ予算オーバーだわ」
「ええ、差額分くらいプレゼントしますよ。いえ、させてください」
もともと、ドレスはジンがプレゼントすると主張していたのだけど抵抗があってかなり強硬に断っていた。プレゼントされる理由が無いと。
ジンはがっかりしたようではあったけれど、「あなたの意思を尊重します」と最後には納得してくれた。
どうしよう。
結論が出ないまま顔を上げれば、不安げな表情のジンと目が合った。
ここで断ったら、この人ずっとずっと引きずるかしら。いじけ顔のジンが目に浮かび、ペレグリーはくすりと笑った。
「では、お言葉に甘えさせていただくわ」
ペレグリーの返事に、ジンは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ええ、当日が楽しみです。あなたをエスコートするなんて緊張しますね」
その時、肝心なことにペレグリーは気が付いた。
「ちょっと、私のドレスよりあなた、自分のタキシード選んだの?」
「え? いえ、タキシード着ないと駄目ですか? この際軍服でもいいななぁと。ほら、ロストエルサレムでは、軍服など制服が十分正装として通用したっていいますし。なんか、男性の軍服は制服フェチな女性のかたがたにたいそう人気があったって、祖父の蔵書の中にありあましたよ。制服の写真集もあったなぁ」
ペレグリーは嘆息する。
「何わけわからないこと言っているのよ。昔の制服と今の制服は全然違うのよ。通用するわけないじゃない。さあ、選びに行くわよ」
「はぁ……なんか、タキシードって、七五三みたいで落ち着かないんですよね。どうせ七五三なら、紋付き袴のほうがまだ落ち着くんですけど……」
「しちごさん?」
意味不明な言葉をぶつぶつ並べるジンの腕をひっぱる。ジンのようなおしゃれに興味のない男に服を選ばせる場合、女が主導権をとらないと、どうにも決まらない。
だって、あのドレスを着るのだから、ジンにだって少しはおしゃれをして欲しい。少しは素敵になって欲しい。
「もうなんでもいいから取りあえずダイブアウトよ。いやとは言わせないわよ」
強引に話を進めるペレグリーにジンは少し困ったように、それでもどこか楽しそうに頷いた。