186:ボトル[ジン*ペレ]
子どもの頃、緑色の透明広口ボトルの中に宝物を入れた。
「で、ジン……何なの? これ」
ペレグリーはダイニングテーブルの真ん中に置いてある緑色のボトルを指さした。
「宝物ですよ。この前実家に帰ったときに、見つけて懐かしくなってつい持ってきました」
「宝物って、中はゴミが入っているようにしか見えないんだけど」
ゴミにしか見えないのだけど、よく見ればそれはシールだったり、菓子のおまけのストラップだったり、貝殻だったり、石ころだったり、バッチだったり、メディアだったり。……とどう見てもゴミだった。ペレグリーはさらに目を懲らすが、やはりゴミにしか見えない。
熱いお茶が満たされたティーポットを持ったジンは、ペレグリーの背後からボトルを覗き込んだ。
「こうして見ると中佐から貰ったものが多いなぁ」
「え?」
ペレグリーは振り返る。
「ほら、祖父の道場へあの人通っていたという話はしたでしょう? たまに子どもの好きそうな菓子とか持ってきてくれたんですよ。そのおまけとかキャップとか、嬉しくてつい放り込んでいたんですね」
「あの人がねぇ。そんなに子ども好きだったのかしら」
ジンはペレグリーの向かい側の椅子に腰を降ろし、二つのティーカップに茶を注いだ。
「いえ、大っ嫌いでしたよ。子どもが。私の場合は師の孫であり、師に借りをつくりたくないという理由で孫に菓子とか持ってきてくれたようでした」
「ふーん、らしいわね」
「そんなことまったく気が付かずに、私は単純に可愛がられていたと思いこんでいて、まとわりついていたんですよ。後から聞いたんですが、どれほど邪険に扱ってもまったく意に介さずって感じでそのうち中佐も根負けしたようです」
「昔からあなた変わっていないのね」
「何がですか?」
「だから、その鈍感なところよ」
「ええ、よく言われるんですよね。鈍感だとか、場の空気読めとか……」
ジンは頬杖ついて緑色のボトルを指ではじいて嘆息した。
「で、そんなものを宝物ととして手当たり次第入れていたというわけ? でも普通宝物ならこんなに無造作に放り込んだりしないで、きちんと整理して大切に扱うと思うけど」
「確かに一度ボトルに入れてしまうと、もうボトルから取り出して手入れしたりと眺めたりなんてこともなかったですね。宝物といっても少し違うような気がします。なんでこんなことをしていたのか我ながら謎です。……まあ、子どものやることですから」
ペレグリーはティーカップに注がれた茶に口をつけた。
「本当は別のものをとっておきたかったっだんでしょう? でもそれは物理的にとっておけないものだっただけでは」
「あ、なるほど……。そうか、そういうことか」
ジンは一人でうんうんと頷き、納得している。
ペレグリーはくすりと笑ってビンを指先でつついた。
「それで、どうするの? このまま一生取っておくつもり?」
「捨てます」
きっぱりと言い切るジンにペレグリーは目を丸くする。
「宝物だったんじゃないの?」
「あなたのおかげで気が付きました。私がボトルで宝物として入れていたものは、うれしかったその時間を切り取り閉じこめたつもりだったような気がします。でも、どうやっても時間は保存することはできないってこと、子どもだったから理解できなかっただけのようです」
「いいの?」
「所詮ゴミはゴミですし」
そう言いながらおかわりのお茶をティーカップに注ぐジンにペレグリーはにっこり微笑んだ。