144:リズム[ジン*ペレ]
※何げに137:ダンスから繋がっています。
深紅のドレスが転送されてきた。
箱を開けて広げてみるだけでは満足できず、すぐに着てみた。
ソシアルダンスなんてもう何年も踊っていない。
もともと、ダンスにはさほど縁がなかった。それでも、たしなみにとハイスクール時代の友人に無理やり付き合わされた。
本格的なダンスパーティではない。踊らなくてもお酒と食事と会話を楽しめる。まったく踊れなくても気にする必要もないパーティだ。
それでも覚えているかしらと、軽くステップを踏む。
リバーススクエア、サイドステップ、ソロターン、クロスシャッセズ……。
不思議と身体がそのリズムを覚えていた。
「なんですって?」
ペレグリーは目を丸くする。
わかっている。ジンが悪いわけではない。
U.M.N.仮想空間で開かれるパーティではない、リアルなパーティは本当に久しぶりだった。こんなふうにうきうきした気持ちなんてもう何年もなかった。
「すみません。緊急の事態ですし命令ですから」
ペレグリーは顔を上げる。
「何を謝っているのよ。私たち一応軍人よ。こうなることだって予想して当然なのよ」
――ドレスもタキシードも無駄になっちゃったわね。
その言葉をなんとか飲み込み、ペレグリーは微笑んだ。
残念な気持ちはジンもきっと同じなのだ。
「必ず埋め合わせはしますから」
「何を言っているの。それより死なないでね」
二人は唇を軽く重ねた。
二週間後、帰宅しようとするペレグリーのコネクションギアがメールの着信を知らせた。
ジン……?
まだ、帰還途中のはずだ。
今夜迎えに行くから、あのドレスを着て待っているようにですって?
どういうつもりかしら。
もしかして、あのドレスを着て食事にでも行こうというのかもしれない。
ダンス専用ウェアではないとはいえ、あのドレスにタキシード。レストランくらいでは周囲から浮くだろうとは思ったが、付き合ってやってもいいかと思う。
埋め合わせのつもりなのだろうから。
ドアを開けるとタキシードを着こんだジンが立っていた。
頭のてっぺんからつま先までを一通り見てペレグリーは嘆息した。
「ちょっと、あなた頭ぐしゃぐしゃよ。髪梳かしていないでしょう」
「あ……すみません。戻って慌てて着替えて、それでやっとギリギリの時間でしたから。髪梳かすの忘れていました」
バックから小さなブラシを取り出し、ペレグリーはジンの髪を梳く。
「それで、何処へ連れていってくれるのかしら?」
ジンは招待状をペレグリーに差し出した。
「これも、任務です」
「任務って?」
「中佐が……代理で行けって」
招待状をじっと見る。
「なんか、豪華そうな招待客が集まりそうなパーティね」
「ええ、パートナー必須だということで、中佐に『俺には向かん』と無理やり押しつけられました。気が乗りませんか?」
二人の上官は先日のパーティがキャンセルせざるを得なかったことを知っている。
彼なりの気遣いなのかもしれないと思い、その時の上官の顔を思い浮かペレグリーはくすりと笑った。
「いいえ、楽しそう」
「あー、まったく中佐も明日の早朝には別任務で出発だというのに人使いが荒いったらありゃしない」
「仕方ないわ。行きましょう」
ぶつぶつ愚痴るジンの腕にペレグリーは自分の腕を巻きつけぐいっとひっぱり微笑んだ。