117:未来[ジン*ペレ]
薄暗いベッドルーム。
ぱらり……ページがめくられる音に、ヘッドボードに背を預け本を読んでいたジンは視線を落とす。
ペレグリーがうつ伏せて肘をついた姿勢で雑誌を読んでいる。裸の背中が、ほの明かりの中白く浮かんでいた。
それがなんとなく寒そうで、読書の邪魔にならないようにふわりとブランケットをかけてやる。
ペレグリーは気にする様子もなく肩肘で顎をささえた姿勢を崩さず、熱心に雑誌を読んでいる。
ふっと時計を見れば、もう遅い。いい加減に休まないと明日に響く。
ジンは軽く咳払いをする。
ペレグリーは顔をジンの方へとむけた。
ジンはおっとりと微笑んだ。
「ずいぶん集中していたようですが、もう遅いですからそろそろ寝ましょう」
ペレグリーは頷くと雑誌を閉じ床に放り、うつ伏せから仰向けにもぞもぞと寝返った。
「ねえ、ジン……あなた、紫の小物何かもっているかしら?」
「小物……ですか? えーと、コネクションギアのカバーに紫のモノがあったかと」
「あ、それでいいわ」
「それでいいって……?」
怪訝な表情をペレグリーに向けた。
「あなたの明日のラッキーカラーよ。紫の小物を身につけると仕事も恋愛も上手くいくんですって。今あなた丁度運気が下がっているから……」
「はぁ……。それは占い……ですか? もしかしてさっきまで読んでいた雑誌に?」
「そうよ。ファッション誌に占いはかかせないわ」
「確かに、女性と占いは切れないとは言われていますが、あなたまで……」
ジンは目を丸くしてまじまじとペレグリーの顔を覗き込む。
視線に気が付いてペレグリーは眉をつり上げ、きっとジンを睨んだ。頬が少し赤い。
「な、なによ。気にしちゃ悪い?」
ジンは慌てて否定する。
「いえ、そんなことは無いのですが、ちょっと驚いただけです」
ペレグリーはジンにくるりと背を向け横たわる。ブランケットを引き上げ肩まですっぽりとくるまった。
ジンも傍らに寄り添うとペレグリーの銀色の髪を指で梳いた。
「占いが当たるなんて思っちゃいないわよ。でも、ほとんど手間もかからないようなことで、下がった運気を上げられますよって、一端目にしてしまえば、それをしたっていいじゃないと思うだけ。もししなくて、よくないことが起こったら、『あの時……』なんてつまらない後悔をほんの少しでもしてしまうかもしれないから」
この恋人は何かを恐れているのだ。おそらく何も見えてこない未来を。
ずっと共にありたいと願う。それは二人とも同じだ。
それなのに、同じ道を歩いていく自信がなくなっている。
そう、もうどれくらい前からだろうか。二人の間で、将来のことを話さなくなくなったのは。
いつの間に、未来のあるべき二人の姿をイメージできなくなってしまっていた。
たった数ヶ月先の予定を話題にすることすら、無意識のうちに避けるようになってしまっていた。
その瞬間にお互いの肌を求め、ただ抱き合うしかないのだ。
ジンはペレグリーの髪を掻き上げ、こめかみに唇を落とした。
「おやすみ、良い夢を」