173:三色限定[Jr.]
「どうせやること無いのだから、プレイベートビーチにでも皆を連れて行ってこい」
と、ガイナンに厄介払いをされた。Jr.がいないほうがむしろ仕事が捗るとガイナンは悪態をつく。
基本的に宇宙を飛び回ることが仕事であるJr.はガイナンと違って、クーカイファウンデーションでやるべきことはさほど多くはない。しかし、Jr.は帰還する際、必ず厄介ごとを連れてになる。当然ガイナンは忙しくなる。
本日の天気はと、雷が苦手なシオンのために確認する。
大丈夫、雷雨の予定はないようだった。
シオン、モモ、アレン、ジギーのおっさんですら楽しそうだ。
そういえば、このプライベートビーチにガイナンと一緒に訪れたことが一度も無かったことに、Jr.は今更ながら気が付いた。
白い砂浜。
青く澄み切った空。
心地よい風。
寄せては返す穏やかな波の音。
人口ビーチ。
作られた海。
それでも、あの時、あれほど焦がれていた海なのだ。
ユーリエフ・インスティチュート。
U.R.T.V.標準体は番号で呼ばれ、識別をすることすら難しい。能力もほぼ同じ個性の無い存在だった。いや、もしかしたらあったのかもしれない。でも、あっては行けないという大前提の元でつくられたのだ。
変異体である三人は番号の他にもう一つ名前を持つようになった。
ルベド、ニグレド、アルベド。
まったく同じ金色の髪を持つ標準体と違って、ルベドは赤、ニグレドは黒、アルベドは白い髪を持っていた。色が個性だった。
U.R.T.V.は兵器だった。
あの当時、兵器である自分たちのあり方にそれなりに納得していた。そういうふうにつくられていた。
実験、調整、訓練、調整。
それが日常だった。
それが過酷なことだったのかどうかなんて普通の生活を知らないのだからわからない。
そんな日々の中、三人の中で『海』をこの目で見たいという共通の思いを抱くことになる。
きっかけはなんだったのだろうか。覚えてはいない。
それは無言の約束。
ルベドとニグレドの。ルベドとアルベドの
すべての生命の源。
死を呑み込み新しい生をはぐくむ母なる海。
生命の循環の中で汚れを浄化する。
海は優しく囁く。
――おいで。
……と。
寄せては返す波を見つめ、Jr.は朧気に理解する。
海は自分たちのような歪な存在を許し受け入れてくれる。無意識に救いを求めていたのだと。
Jr.は手をぎゅっと握りしめた。
まだ、はやい。
己の肉体を海に返すにはまだはやすぎるのだ。
だから、未来を繋げるために戦う。
感傷に浸り過去を振り返ることは、もうしない。