150:姉妹[Jr.+モモ]
「ママと生まれてくる妹をお願い」
サクラはJr.にそう言った。
モモはサクラの妹。
そして、あの大量生産された百式たちは、サクラの妹でありモモにとっても妹にあたる。
では、キルシュヴァッサーはサクラの妹、モモにとって姉にあたると言ってよいのだろうか。
たぶん、サクラはキルシュヴァッサーも妹だ……と言うだろう。
サクラはヒト。
モモも百式もキルシュヴァッサーもヒトが作り出したレアリエン。
キルシュヴァッサー。
ただ、モモを生み出すために作られた試作品。
失敗しては壊す……を繰り返す。
最後には完成品に近いものができていた。
それでも、プロトタイプモモが誕生したその瞬間、彼女たちは存在意義を失った。
百式観測機としての能力も持たない試作品でしかないのだから。
モモは制作者〈ミズラヒ博士〉にとっても特別な存在。
おそらくは娘サクラと同等の存在だったのだろう。
残されてしまう、試作品でしかないキルシュヴァッサーがどのような運命を辿るかなんて考えが及ぶことはなかったのだろう。
モモを救出にアルベドを追ったあの時。
キルシュヴァッサーたちの哀しい瞳が瞼にこびりついている。
どんなに酷い扱いを受けたとしても、最後に壊されてしまうことを理解していながらアルベドの元から離れることはできない。必要とされる一瞬を与えてくれる。たったそれだけのことで。
第二ミルチア宙港
「Jr.さん……」
モモに名を呼ばれ、振り返る。
「なんだ? モモ」
「ええ、いよいよ解析がはじまるんですね」
「ああ、まあどうってことないから心配するなって」
ニッと笑うJr.にモモもつられてにっこりと笑う。
「はい、Jr.さんがそう言うのでしたら」
モモは……あれ以来、キルシュヴァッサーについて触れない。
モモの彼女たちに対する感情は複雑だ。
多くのキルシュヴァッサー犠牲の上に、作られたモモ。
でも、どのような言葉を選ぼうが、彼女たちについて語れば、持てるものの傲慢さにしかならない。
これは、モモの手に余ることなのだ。
モモのかわりに誰かが……何らかの答えを導き出すべきなのだろう。
Jr.は嘆息した。
その役目は、案外おっさん――じゃなくて、ジギーが適任なのかもしれない。
だけど、サクラと約束をしたのは自分なのだ。
――ママと生まれてくる妹たちをお願い。