141:砂[赤+サクラ+白]
「まるで、ガキだな」
赤いビーチチェアに寝そべりながら、Jr.は呟いた。
ガキというのは、シオン、アレン、モモ、ケイオスの四人だ。
クーカイファンデーションにあるプライベートビーチの白い砂浜。そこの波打ち際で砂遊びだ。
砂の城をつくるのだと四人ではりきっていた。砂遊びに何、力入れているんだか。
「アレンさん、そこ……崩してしまっていますよ」
「ご、ごめん、モモちゃん」
モモの指摘にアレンは慌てて謝る。
「一カ所ばかり、撫でたり力入れて押さえたりするから崩れちゃうんですよ。もっと全体を見てくださいね」
「……この部屋が、僕と主任の新居だと思うと……つい力が入って」
だらしのないニタニタ笑いを浮かべるアレン。
「え? 何か言った? アレンくん」
「いえ、何も」
ケイオスはそんな二人のやりとりに吹き出しながら、窓を作ったり、テラスを作ったりの細かい作業をしている。
「シオン、高さはこんなものでいいかな。乾いてきたところ、少し水で湿らさないとね」
「そうね、これくらいが限界よね」
「わあ、絵本にあったお城みたいで、とても素敵です」
砂の城はなんとなく様になってきている。あと少しで完成か。
「へぇ、なかなかやるじゃん」
とJr.は呟き、目を閉じた。
サクラの深層領域で、海辺に行ったことがある。
白い砂浜、青い空。キラキラと太陽光を反射させる海。
それよりも、サクラのはしゃぎ喜ぶ姿が眩しかった。
はしゃいで、喜んで、笑って、ずっとしゃべりっぱなしだった。
砂浜に立ち、寄せては返すおだやかな波を飽きもせずにずっと眺めていた。
「もう、時間だ」
ニグレドが申し訳なさそうに言った。
サクラは「今日はありがとう」と微笑んだ。でもJr.を見つめる瞳が寂しげだ。
Jr.はにっとサクラに笑いかけた。
「またすぐに会いにくるさ」
サクラは頷きにっこりと笑った。
「今度は、砂でお城を作りたいわ」
お城ねぇ、さすが女の子ロマンチックだ。
「ああ、約束だ」
「行くぞ、ルベド」
刺々しい声に振り返ればアルベドと目が合った。
ものすごい目だった。
嫉妬、憎悪、嫌悪。
彼は、サクラが三人の輪を乱していると思いこんでいる。
いや、サクラにJr.がとられてしまうのではないかと疑っている。
不安なのだ。
そんなアルベドからJr.は視線を逸らしてしまう。怖くてまっすぐ見ることなんてできなかった。
サクラとの約束。
――今度は、砂でお城を作りたいわ。
その今度はもう訪れることは無かった。
「わあ。完成ですね! すごく素敵です」
モモのはしゃぐ声に、Jr.はゆっくりと瞼を開いた。
見事な城だった。
サクラとモモはそっくりだ。だけど、全く違う。それでも、もし約束を果たせていたら、あんなふうにサクラは喜んでくれただろうか。
Jr.はもう一度目を閉じた。
アルベドの顔が浮かんだ。あの時、目を逸らしてしまった後のアルベド。
今にも泣き出しそうな顔をして、縋るような目でJr..を見つめていた。
「なあ、アルベド……。おまえとはやっぱ決着をつけねえとな。それが、俺がお前に見せられる最後の誠意かもしれねえんだよな」