004:好き[ユリ+モモ]
好き……。
ママが好き。
ジギーが好き。
Jr.さんが好き。
シオンさんが好き。
みんな好き、大好き。
では、ママは?
ママはモモのこと好きですか?
好きなはずないでしょう?
あなたはサクラではないわ。
私の娘なんかではない。
娘と同じ顔をして私の前に立たないで。
モモもっとお役に立てるようにがんばりますから嫌わないでください。
お願い、ママ。
ママ……。
†
お揃いのエプロンをつけて、キッチンに立つ。
接触小委員会に所属する高名な科学者でもあるユリは忙しい。
そんな中、時間があればこうしてモモとゆったりと過ごすことにしている。
一人で暮らしていたときは、自分の食事のためだけにキッチンに立つことなどなかった。
一人の食事は味気ない。忙しいこともあって外食ばかりだった。
娘がいる。
それだけで、この殺風景だったキッチンがこれほど優しくなる。
「では、モモ。あと五分弱火で煮込んでから火を止めてね。大丈夫ですか」
「はい、モモにまかせておいてください」
「その後で、テーブルにランチョンマットを敷いてくれるかしら。それと、スプーンもね。ママはパンを切っているわね」
「はい、ママ」
テーブルに花を飾る。
そんなこと今まで一度もしたことはなかった。
一人の食事が二人になる。それだけで毎日の食事が義務でなくなる。
食器を片づけ終えてふとモモを見れば、表情が暗い。
「モモ、どうしたのですか? 元気がないようですが、何かを悩みごとでも?」
「え、いえ……何でもないんです」
モモは笑う。でも、どこかぎこちない笑顔。
ユリはため息をついてモモに言った。
「何でもないと言われても、そんな表情をされたら気になるわ」
「ごめんなさい。昨日、嫌な夢を見たんです」
「嫌な夢って、どのような?」
「はい……あの。でも……」
話にくそうに、モモはうつむいた。
「夢は夢よ、現実ではないわ。でもあなたの心を映すものでもあるの。だから、それが何か現実世界の解決に向かうこともあるのよ。話せるのなら話してね」
モモは下を向いたまま少し考えているようだった。そして、顔を上げ、ユリを見て言った。
「ママはモモのこと好きじゃないって、そう……ママが……」
最後には消え入りそうな小さな声。ユリは目を見開いて、モモを見た。
「そう、モモは本当に寂しい思いをしていたのね。ごめんなさいね」
「今はママと一緒にいられてモモは本当に幸せです」
「モモはママと一緒に暮らす前に、そんな夢を見た?」
モモは黙って首を横に振った。
「それは、今までモモがずっと心の奥に閉じこめておいた恐れなの。だから見ないようにしていたのね。でも、今は……」
ユリはそっとモモを抱きしめた。
そんな思いを抱かせてしまっていたモモが不憫であり愛おしかった。
「ママがそばにいるでしょう? だから、その恐れたものを見ないようにする必要もなくなったの。だから、それは残骸。夢の中だけに出てくるありもしない幻なの」
「ママ……」
「これからも、たまにそんな夢をみるかもしれない。でも、少しずつ見なくなるわ」
「モモ……これからも、もっともっとママのお役に立てるように一生懸命がんります」
ユリは抱きしめていたモモをの身体を離し頭に手をのせ微笑んだ。
「がんばる必要なんてないのよ。モモが……たとえば、今のように役に立たなくてもモモがママの娘であれば十分。それが大切なの」
ユリを見上げるモモの瞳が潤んでいた。
「だから、ここがモモの家。モモがどこへ行ってもママは待っていますから、必ず元気で帰ってくるのよ」
「はい、モモは必ずママのところに戻ってきます」
モモは今度こそ、はっきりとした笑顔を浮かべた。
ユリはEP1から気になるキャラでした。サーガは全体的に薄っぺらく感じるキャラが多いのですが、大人のキャラがいい味出していましたよね。