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009:はじめての日[ネス*トリ]
なんて汚い子だろうと思った。
とても、握手などする気にはなれない。
その女の子は垢だらけで、その臭いから察するにたぶん何ヶ月も身体を洗っていないのではないかと感じた。
不潔にしていたせいか、覗いた手足に皮膚病らしき痕が痛々しい。
ああ、これがあの罪深きクレスメント一族の末裔だというのか。
「この子はトリス。おまえの妹弟子になるのだ。優しくしてやりなさい」
怯えることもせず、紫を帯びた濃い色の瞳が睨んでいた。
こぼれ落ちそうに大きな瞳。
全身すべてが薄汚れ、決してかわいいとか綺麗とか形容できる女の子ではないだろう。
その瞳だけが宝石のようにきらきらと輝いていた。
ああ、綺麗だ。
そう思ったとき、僕は手をさしだしていた。
なんて綺麗な人なのかしらと思った。
あたしの周りにいた子どもは皆、あたしのように薄汚れていた。
でも、目の前にいる男の子の肌は白くて全然汚れていない。
恥ずかしかった。
とても、握手なんてしてもらえない。
「この子はネスティ。おまえの兄弟子ということになるんだよ。わからないことは彼に訊きなさい」
メガネの奥の黒い瞳が私をじっと見ている。きっと、汚い女の子だって呆れているんだ。
どうしよう。
「よろしくトリス」
いきなり白い手があたしの汚い手を握った。
びっくりして、顔を見る。
相変わらず不機嫌そう。
でも、手は温かかった。
あたしはここにいていいんだと、その時はじめて思った。
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