114:店[マグ*ネス]
「ここって、大きい街だったんだね」
商店街でマグナは落ち着かない様子できょろきょろとあたりを見回した。
まるでおのぼりさんだと、ネスティは嘆息する。
「君は導きの庭園で昼寝をするくらいだったからな。聖王都と呼ばれるくらいさ。ここで手に入らないものはほとんど無いさ。とにかく必要なものを先に買っておこう。薬は多めに持っていったほうがいいだろう」
ネスティは迷わず薬局へ向かう。なんとかはぐれないように、それでもきょろきょろしながらマグナも後を追う。
明日には見聞の旅へと出発する日だった。このゼラムを離れなくてはいけない。
見聞の旅などではないとネスティは言う。
そんなこと、マグナだって理解していた。体の良い追放。理不尽な仕打ちなのだと。だからといってどうしようもない。他に選択肢などないのだ。
あっさりと了解するマグナにネスティは激昂した。
あれはネスらしくなかったとマグナは思う。
どう考えたって拒否することは不可能なのに。
いつものネスティは冷静だ。
感情的なものや気分的な要因を排除してはじめて意見したり何かを訴える。
それなのに、派閥において大きな権限を持っているフリップ様にあそこまで刃向かう発言をするなんて。
あまりにもネスティらしくなかった。
普段のネスティのもっとも嫌う無駄な言動なのに。
ただマグナのために怒り抗議をしていた。
薬を物色していたネスティの指が止まり、振り返りマグナを見た。
「おい、人ごとみたいに眺めているな」
「あ、俺よくわかんないからネスに任せる」
「君はバカか? 自分が必要なものなんだ。何が必要か自分で考えて少しは選べ」
「う、うーん」
マグナも棚に並んだ薬を一つずつ手に取り眺めてみる。
どれがいいのかさっぱりわからない。そんなマグナを無視してネスティは必要なものをさっさと選びショッピングバスケットに放り込んでいく。
いきなりマグナが買うべきか悩んでいる薬をひったくるとそのままバスケットに投げ入れた。
「買い物が終わったら君が好きな甘いものでも食べに行こう。僕には味はわからないけど」
「え? 本当に?」
「ああ、しばらくここには戻ってくれないのだから今日は特別だ」
「うん」
マグナは嬉しそうに頷いた。。
困難な旅になるとネスティは言う。
どんなに辛くても、理不尽な要求でもネスティと一緒ならば耐えていけるような気がした。
今こうして、二人だけで店を巡りショッピングをする。
それだけで、こんなにも楽しいのだから。