059:喧嘩![マグ*ネス]
「やめろ!」
ネスティは蒼の派閥の召喚士に馬乗りになり首に手をかけたマグナの身体を引き離した。
周りでにやにや見ているだけだった他の召喚士たちも、慌ててマグナの喧嘩相手を引き離した。
興奮状態のマグナを押さえつけ、げほげほ苦しそうに咳き込んでいるその召喚士をネスティは呆然として見つめていた。
一週間の謹慎を命じる。
正式な処分は追って知らせる。
鍵のかけられた反省室。
食事は一日二回。
毎日反省文を書かされると聞いている。
何故?
とネスティは思う。
マグナは、どんなに貶められても侮蔑の言葉を浴びせられても激昂するようなことはなかった。
そう、ただへらへら鈍感そうな笑みを浮かべるだけだったのだ。
――成り上がり
この言葉に反応したとネスティが現場に着くまえから、いた連中が証言したいた。
おかしい。
その言葉は今までも何度も言われていたはずだ。
今更反応するなんておかしい。
マグナが謹慎している反省室のドアを叩いた。
「マグナ、起きているか?」
「ネス?」
がたんと椅子が引かれる音がしてドアへ走り寄る足音が聞こえてきた。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか。ネスはこんなとこ来て大丈夫なの?」
「ああ、許可はもらってきた」
「あのね、ネス。えと、大丈夫?」
「何がだ?」
「うん、ラウル師範は……あの」
ネスティはマグナに聞こえるように意識して思いっきり大きく息を吐いた。
「始末書。それと、君の罰がなんとか軽くなるようにあちらこちらに頭を下げて歩いている」
不機嫌そうな声を出してしまった。
「そうか……ごめん」
「まったくだ。それにしてもどうしたんだ? 『成り上がり』と言われたからといって、今更」
マグナは少し黙っていた。そして話し出す。
「俺だけが成り上がりって、言われるんなら耐えられたんだけど」
「だけど?」
「ラウル師範やネスことを色々と……」
そんなことかと、ネスティは呆れる。
「君はバカか。無視すればいいだろう」
「俺、頭の中が真っ白になっていて、気が付いたらあいつに馬乗りになって首を絞めていた。きっと周りが止めてくれなかったら、絞め殺していたと思う」
「その軽率な行動がラウル師範の立場を悪くしてしまったのだ。少しは考えろ」
「俺……自分が怖い。あんなふうに誰かを簡単に殺すことができるんだって。もしかしたら、また……」
ネスティはドアに手のひらをあて、目を閉じた。
このドアを挟んでマグナも手のひらを当てている。何故かそう確信した。
「心配するな、いつでも僕が止めてやる。同じようにな」
ドアに当てた手のひらから、マグナの体温がじんわりと伝わってくるような気がした。
「うん」とマグナが頷くのを感じた。