258:カフェ[マグ*ネス]
「ここは、プリンがおいしいんだよ」
そう言いながらマグナは、ネスティの腕を掴み、カフェの中に入っていく。
陽光がさんさんと降り注ぐ、オープンカフェ。
ケーキ類がおいしいというだけではなく、この開放的で明るい雰囲気をマグナは気に入っているのだろう。カフェで一休みとなると、ここへマグナは来たがる。
「俺は、サンドイッチとプリン。あとは、紅茶かな。ねえ、ネスは何食べる?」
注文が決まったマグナは、メニューをネスティに差し出して言った。
「僕も君と同じでいい」
ネスティは、手元の本を読むことに熱心で、メニューを見ようともせずに即答した。
「ネスは、いつも俺と同じもの頼むよね。どうして?」
ネスティは、読んでいた本をぱたりと閉じ、テーブルに置く。
「気にしないでくれ。僕にとっては、どれを食べても似たようなものだ。メニューを見て悩むだけ時間の無駄だからな」
「ふーん」
メインストリートに面しているオープンカフェ。
マグナはメインストリートを行き交う人々を眺めている。人々の表情は明るく、穏やかだ。
「平和だな」
「うん、よかったよ。これもネスのおかげだ」
「僕の? 違うだろう。君と、あの時戦った仲間みんなのおかげだ」
「うん、そうだけど。あの時、メルギトスを倒しても、ネスが大樹になって世界を浄化してくれなかったら、この世界はどうなっていたかと思うと」
マグナにとって、その代償はいつ帰ってくるのか、本当に帰ってくるのかわからぬ人をただ待ち続けることだった。その苦しみは二年間続いた。その二年は長かったのか、それとも短かったと言えるものなのか。
「さて、食べ終わったのなら、そろそろ出ようか。明日の準備まだだろう。必要なものさっさと買っておかないとな」
そう、明日、マグナの生まれ故郷に行くために、二人でこの街を発つ。
うなずいて、マグナは、両手をあげ、ぐっと背中を反らせた。日差しを全身で受け止めようとするかのように。
「気持ちいい! お日様って本当に気持ちいいね」
「どうしたんだい?」
マグナはネスティに顔を向け、にっこりと笑った。
「うん、俺の生まれ故郷。あまり晴れなかったんだ。寒くて暗い町。だから、ここでお日様浴び溜めしておこうかと思って」
「浴び溜め?」
どういう発想だ。
でも、確かにマグナがごくたまにぽつりと語る故郷の思い出は、陰鬱なイメージがつきまとう。
それでも、そんな生まれ故郷へ、ネスティを案内してくれるという。
でも、本当はマグナにとって酷なことだったのかもしれない。
お日様でお腹いっぱいにでもなったのか、マグナはネスティに顔を向け、満面に笑みを浮かべた。
「ねえ、ネス。俺……楽しみなんだ。あそこに行くの。あまり良い思い出はないんだけど、ネスと一緒ならば、きっとあの頃と違う目であの町を眺めることができるんじゃないかって。それに、あの町は俺を育ててくれたんだ。だから、何か恩返しがしたい。そんなふうに今は思っているんだ」
ネスティはそんなマグナの笑顔に目を細めた。
どうやら心配は無用だったようだ。
マグナがお日様のようなものなのだ。どれほど深い闇も優しく照らす光。ネスティの心にある頑なな闇に光を与えてくれたように、きっと彼ならば生まれ故郷に光を分け与えることができるのではないかと。そうネスティは理解した。