251:ほしい?[マグ*ネス]
子どものころ、マグナはもらったり拾ったりしたものでも、気に入ったものならばネスティに見せていた。ポケットから取り出し、手のひらにのせて嬉しそうににっこりと笑う。
「ほら、見て。いいでしょう。ねえ、ネスもこれほしい?」
ネスティはマグナの手のひらにちょこんと置かれているものをじっと見つめる。ゴミ、よくてガラクタにしか見えなかった。お菓子についていたおまけ、景品、機械類に使われていただろう部品。それは一般的には使用用途などないまったく役には立たないものだ。ほしいかなどと訊かれてもほしいはずはない。こんなものをうれしそに見せびらかすことが理解できない。
ネスティはつまらなさそうに「いらない」と言った。
瞬間マグナは少し悲しそうな表情をする。
「そう……」
マグナは目を伏せ黙った。
まったく、それはマグナのお気に入りなんだろう。ほしいと答えれば、くれるというのだろうか。いや、さすがにくれないか。そんなどうでもいいことが気になって試してみることにした。
ネスティはマグナの前に手をさっと差し出した。手のひらを上にして。
「気が変わった。急にほしくなった」
マグナは目をぱちくりした。
その様子に、ほらみろとネスティは思う。マグナはネスティがまさかほしいなどと言うとは思っていなかったのだろう。手放す気もないものをほしいかなどと訊くからそういう目にあうんだ。
ところが、次の瞬間マグナは満面に笑みを浮かべた。心底うれしそうに。
「ほんとうに? ほんとうに、ネス。じゃあ、大切にしてね」
そう言いながら、マグナはネスティの手のひらの上に、犬のマスコット人形を乗せた。大切にって、こんな使用用途のまったく不明なゴミなどどうしろと?
ネスティは困惑の表情を浮かべ、手のひらにちょこんとのっかっている小指ほどの大きさの犬を黙ったまま眺めていた。
「俺、ネスに何もあげられなくて、ネスは何が欲しいのだろうとずっとわからなかった。だから、俺の好きなもので、ネスが好きなものがあればそれをあげようと思ったんだ。でも、ネスは何を見せても、いらないっていうし。俺何もネスにあげられないのかなって」
ネスティは何も言えなくなって、そっと手のひらの犬を握りしめた。
「そうか……。ありがとうマグナ」
野営の焚き火の炎がぱちぱちとはぜる。ポケットから小さな犬を取り出しネスティは眺めた。あのときの犬は手放すこともできず、こうしてお守り代わりとなってしまっていた。何の役にも立たない、使用用途などまったくないただのゴミなのに。
「ネス……」
背中からかけられた声にネスティはあわててポケットの中へ犬をつっこんだ。
「どうした、マグナ。皆、寝ている。君もちゃんと寝られるときに寝ておかないと明日がきついぞ。僕ももう少ししたら、フォルテと交替して寝るから」
「うん、少し話していい?」
「何をだ?」
「俺、ネスがいたからここまでやってこれたんだよね。ほんとうに感謝している。何か俺がネスにしてあげられることってないかなと思って」
「はやいところ、一人前の召喚師になって僕の手を煩わせないようになってくれ」
「う……」
マグナは口を尖らせた。
マグナに一人前の召喚師になってほしいと思っているのは嘘ではない。でも、それは二番目に望むことだった。一番望むことは、もっとエゴイスティックなこと。だから、一生それを口にすることはないだろう。
ずっと僕のそばにいてくれ、などとは。