243:コンセント[マグ*ネス]
「あちっ!」
バスルームからレナードの叫び声が聞こえきたなぁとマグナはドアの方に目を向ける。
顎をタオルで押さえ、レナードが出てきた。
「どうしたの? レナードさん」
「あ、いやカミソリ使うのまだ慣れなくてな、顎切っちまったぜ。せめて安全カミソリがあればいいんだが」
「レナードさんの世界ではカミソリでひげを剃らなかったの?」
「カミソリのひげ剃りに拘るやつもいたがな、俺は電機カミソリ派だったからな。その方が、適当にやっても、寝ぼけてひげを剃っても、怪我したりしないのさ」
「ふーん」
電機カミソリと言われてもまったく、何がなんだか。イメージがわかない。
そこへお茶のポットを手にしたネスティが部屋に入ってきた。
「電機カミソリって、電池式? それとも、充電式?」
「ああ、俺様の使っていたのは充電式だ」
ネスティは目を閉じ、先祖から受け継いデータベースから情報を引き出しているようだった。
「電気カミソリには、こんなコードがついていて、先端にプラグがあって、それを電機をとるソケットに差し込むのではないですか?」
「おうおう、それよ」
三人分のティーカップにお茶を注ぎネスティは珍しく柔らかい笑みを浮かべた。
「前々から思っていたのですけれど、レナードさんのいた名も無き世界は、ロレイラルと共通点が結構ありますね。機械をよく利用しているところとか。僕の知識にある機械類がレナードさんの話の中でよく登場する」
「そうだな、俺が説明できないでいるとネスティがよく、皆にわかるように解説してくれたりするな」
そこへマグナが口を挟んだ。
「あ、でも、レナードさんのいたところ、ここリィンバウムにも似ているよ。お店があって、明るいカフェや喫茶店。甘いお菓子とか、海とか」
レナードは笑った。
「ははは、そういえばそうだな。他の世界も色々と共通点があるぜ。シルターン料理は、俺たちの世界では、ニホンショクに似ているし、ユエルみたいなメイトルパ風の連中は、テーマパークに行けば結構いるしな。コスプレとかいう連中も似たようなものだ」
テ、テーマパーク??? コスプレ???
マグナの頭上に疑問符がいくつも浮かんだ。
おかまいなしに、レナードは続ける。
「サプレスは、さすがに無いか。でも、伝説とか神話とか、聖書の世界に近いか。本とか映画とか漫画とかで描かれている皆普通に持っている親しみやすいイメージだな」
「そうか、レナードさんの世界は色々な世界の良いトコどりしているみたいだね。ネス」
「そうだな、僕たちの世界では機械化が進みすぎて、戦争ばかりで、大地を壊し空気汚し光が遮断された暗い世界になってしまったんだ。そして、融機人は滅んでしまった。それに比べレナードさんの世界はバランスがとれているんだな」
「まあ際どいところだがな。でもな、ネスティ。俺は、このリィンバウムの世界が好きだぜ。住めば都ってやつさ。なあ、おまえさんだって、ここ〈リィンバウム〉が好きだろう。好きだからここを守ろうとしているんだろう?」
守ろうとしているのは、マグナが守ろうとしている世界だから。リィンバウムが好きなわけではない。
ネスティは眼鏡を指で押し眉間にしわをよせた。
そこへマグナの屈託のない明るい声が部屋に響いた。
「ここには、仲間が、大好きな人達がいるから好きなんだ。それだけだよ。リィンバウムだってどこにいたって、同じだと思うよ。俺は、大好きな人のために戦うんだ」
ネスティは顔を上げる。
レナードは軽い笑い声をたてた。
「ははは……。まったくおまえさんの思考はシンプルでいいな。
ネスティは「まいったな」と独り言を呟いた。
そうだ、簡単なことなのだ。マグナのいる世界だから僕はここ〈リィンバウム〉が好きになれるのだ。