234:アクビ[マグ*ネス]
疲れた。
目の前にある課題の山にマグナは、うんざりとしていた。
召喚師になるのに、なぜこんなに勉強しなくてはいけないのだろうか。こんなに勉強しなくていけないのなら、むしろ召喚師などになりたくない。
駄目だ……朦朧とした視界の中で、テキストの文字が二重に見える。いや、ノートの文字がもぞもぞと虫のように這い回りはじめた。
ついに大あくびが出た。
「そんな大口開けてあくびをすると、口の中に虫が入るぞ」
ネスティの一言に、ぎくっとする。マグナは慌てて口を閉じ、ばつが悪そうにちらりとネスティを見た。
「ネス……どっか遊びにいかない?」
「遊びだと? 何をばかなことを言っている。やることやってからにしろ」
「だって、今日はこんなに勉強したし、さすがに俺でも疲れたんだ。これ以上やっても集中力は落ちるし、効率悪いよ」
「こんなに?」
「うん」
ネスティはマグナのノートをめくった。
「僕の勘違いでなければ、君が一時間かけて、やったのはこのたった二行だけだと思うが」
マグナは不満そうに口を尖らせた。
「俺……召喚師には向かないんだよ。別に他の道を探したっていいじゃないか」
ネスティはぎろりとマグナを睨む。
「君は自覚がなさすぎる」
そう言ってネスティはマグナに視線を合わせた。真剣な瞳はすぐに閉じられ大きなため息が聞こえた。
「ネス……」
「もう少し、自分の潜在的な魔力の強さを自覚してくれ。その魔力が暴走した結果どうなったか……君は覚えているだろう?」
マグナは目を伏せ唇を噛んだ。
あの時、たまたま拾った石。それがどのような力を秘めた石かも知らなかった。自分の魔力に反応して暴走した。
烈しい白い光とともにすべてを破壊する石。
知らなかったとはいえ、自分の責任だった。コントロールできるようにならなければ、また誰かを傷つけてしまうかもしれないのだ。それは、絶対に嫌だとマグナは思う。
マグナは俯きぽつりと言う
「……俺が悪いんだ」
「ごめん……マグナ。嫌なこと思い出させてしまったな。君が生まれ持ってしまった力は、君が望んだものではないだろう。だから、君の責任ではないんだ」
マグナは黙って首を振った。ネスティは続ける。
「召喚師の才能なんて、正しく使えば人を助けることができる。悪い使い方をすれば、多くの人を傷つけるさ。覚えておいてくれ。君は才能がある。だからこそ、勉強し制御することを覚え、人を助けて欲しいんだ。きっと君にしかできない」
「うん……」
「わかったなら、このページくらい終わらせてしまおう。それが終わったら、街までなにか甘い物をも食べにいこうか」
思いがけない提案に、ネスも甘いなとマグナは思う。でも、そのことを口にしたら倍の勉強をしないと、甘い物にありつけない。
マグナはにっこりいい子の笑顔をつくり、ペンを走らせた。